主演の犬飼は、2012年の「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを獲得し、2014年に俳優デビュー。2017年には「仮面ライダービルド」(テレビ朝日系)で主演の座を射止めて注目を集めた。八重役の優希美青は「ホリプロタレントスカウトキャラバン2012」のグランプリ受賞を経て女優に。NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」や「マッサン」をはじめ、「でーれーガールズ」(2015年)などで映画主演も果たして、順調にキャリアを重ねている。主人公の恋敵にして宿敵でもある甚八郎を演じる武田は、犬飼とは「仮面ライダービルド」でも共演。本作では、正義のヒーロー然とした犬飼に対し、悪役として強烈な存在感を発揮している。

高校時代に陸上競技で活躍し、シュートボクシング経験者でもある犬飼は、運動能力の高さを武器に、見事な剣さばきを披露。殺陣の美しさでも魅了する。着物姿もじつに凛々しくて絵になっており、時代劇との親和性を感じさせた。

■演劇ファン＆特撮ファン垂涎の人気俳優たちが多数共演

ほかの共演者には、矢崎広、前山剛久、井澤勇貴、松村龍之介といったミュージカルや舞台を中心に活躍する人気俳優たちを配し、「ムビ×ステ」らしさを感じさせる。さらに松本寛也(特命戦隊ゴーバスターズ)、井俣太良(仮面ライダードライブ)、元木聖也(快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー)、小野塚勇人(仮面ライダーエグゼイド)、町井祥真(仮面ライダーエグゼイド)ら東映特撮作品の俳優たちも勢ぞろい。演劇ファン、特撮ファン双方に嬉しい顔ぶれとなっている。藩主役の波岡一喜、神谷役の冨家規政もベテランらしい安定感で画面を引き締めてくれるが、八重の乳母・きぬを演じる大島蓉子の温かみのある演技が特に印象深い。

また、本作には「日本一の斬られ役」として名を馳せ、ハリウッド映画「ラスト・サムライ」にも出演、2014年に初の主演作「太秦ライムライト」でファンタジア国際映画祭主演男優賞を受賞した福本清三が出演している。福本は2021年に77歳で逝去しただけに貴重な一作となった。

監督を務めた石田秀範は、平成仮面ライダーシリーズの礎を築き、「仮面ライダークウガ」(2000～2001年)から「仮面ライダーリバイス」(2021～2022年)まで19作品に参加。俳優に対して非常に厳しい演出をすることでも知られる。「仮面ライダー555」がデビュー作となった綾野剛などは、石田に22回のNGを出されたことで、役者として生きていくことができたと告白。石田のことを大恩人だと話している。本作でも、洗練された殺陣の場面や光と色にこだわった独特の映像から、石田のこだわりが相当に発揮されたことは想像に難くない。

個性豊かなメンバーが一堂に会した「ＧＯＺＥＮ--純恋の剣--」は、今では人気企画としてすっかり定着した「東映ムビ×ステ」の記念すべき1作目であり、犬飼貴丈の奥深い魅力に触れられることでも価値がある映画だ。ビジュアルの良さに加えて、丁寧な演技と殺陣のスキルも存分に見せてくれる。犬飼ファンならずとも、多彩な個性を持った顔触れがそろう本作は、見ごたえ十分。演劇ファン、特撮ファンには見て損はない一作だ。

文＝渡辺敏樹