さらに、静かな佇まいの中に直彦の純粋な心をにじませた窪塚、清潔感溢れる魅力で英二と直彦から愛される泉を説得力と共に演じた莉子、体当たりの恋をする小春の葛藤やいじらしさを露わにした齊藤、真面目な優等生でありつつ英二への思いを実感し始める恋の芽生えを表出させた志田、周囲の恋のベクトルを俯瞰で見つめながら好きな人の「力になりたい」と奮闘する太一の"いいヤツ感"を見事に演じた猪狩...と、誰もが愛すべきキャラクターを生み出しており、見終わった後にはそれぞれの役柄のお気に入りポイントが見つかりそう。

監督を務めたのは、「美しい彼」シリーズや「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」(2023年)など数々の話題作を手掛けてきた酒井麻衣。浴衣姿の花火大会、文化祭のお化け屋敷、2人きりの保健室やまばゆいほどに光る海など、キュンとくるシチュエーションも満載だ。

恋は楽しいだけではなく、相手や自分も深く見つめることで、誰かを傷つけたり、自分を傷つけたりもする。時にはぶつかりながら本気の恋を見つけていく人間臭さまでを捉えた、青春の輝きが溢れ出すような1作となっている。

文＝成田おり枝