松田優作×桃井かおり、息ぴったりな2人の共演は必見!大胆ながらも繊細な演技が魅力的な「熱帯夜」
俳優
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その後の二人は、松田が「最も危険な遊戯」(1978年)に始まる『遊戯』シリーズなどで、1970年代を代表するアクションスターとして注目され、桃井はテレビで山田太一脚本の「それぞれの秋」(1973年)や「男たちの旅路」(1976,77,79年)、倉本聰脚本の「前略おふくろ様」(1975~76年)や「浮浪雲」(1978年)など、有名脚本家の代表作に起用され、人気女優のポジションを確立した。
中でも桃井に新人のときから目をかけていたのが脚本家の早坂暁で、「たった一人の反乱」(1973年)を皮切りに、「天下堂々」(1973年)を経て、後には早坂のライフワークになった自伝的作品「花へんろ」(1985~88年)で彼女を主演に迎え、大正時代から昭和中期を生きるある家族を描き出している。
■桃井かおりは夢見るシンガーソングライターを熱演
その早坂が脚本を書いたのが今回の作品で、出演当時の桃井と松田は、俳優として最も脂がのっている頃。桃井は「もう頬づえはつかない」(1979年)で各映画賞の主演賞を総なめにし、松田はこのドラマと同じ年に公開された「家族ゲーム」(1983年)で、主演賞を独占した。
そんな二人が逃亡犯を演じただけに、単なるアクションものにはなっていない。松田は熊谷真美演じる妹の幸せを思う優しい一面を持つ兄であり、桃井は素人のシンガーソングライターとしてラジオに自分の曲を投稿する、夢見る女性である。その二人が犯罪を重ねて追いつめられていく様を、岸部一徳やせんだみつお、ケーシー高峰など、異色のキャストを配して濃密に映し出している。
このドラマの前年、松田と桃井は向田邦子原作新春ドラマスペシャル「春が来た」(1982年)でも共演した。その時桃井は、テレビのドラマをなめて現場に来ている松田に、猛烈な怒りをぶつけた。その頃、「野獣死すべし」(1981年)や「陽炎座」(1981年)などの演技で、アクションものとは違った独自の表現を映画で見せていた松田が、ホームドラマを基本とするテレビ作品を過小評価していたのは確か。しかし桃井の言葉で目が覚めた彼は、「春が来た」で市井に生きるサラリーマンを見事に演じた。その後を受けて二人が共演した「熱帯夜」には、互いをリスペクトする松田と桃井の信頼関係が、作品の端々に見える。
文=金澤誠









