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泉里香演じる上崎絵津子との場面では、萩崎の警戒心と引き寄せられる感情が同時に見えてくる。絵津子は手形詐欺事件の鍵を握る人物でありながら、その言葉や表情から本心を簡単には読ませない。萩崎は彼女に近づくことで真相へ一歩踏み込んでいくが、同時に、自分がより大きな何かに巻き込まれていることも感じ始める。小泉は、絵津子をただ疑うのではなく、相手の言葉を受け止めながら慎重に距離を測る萩崎を演じており、そのやり取りが本作のサスペンスに艶やかな緊張感を加えている。
松本清張作品の面白さは、ひとつの事件を追ううちに、その背後にある社会の仕組みまで見えてくるところにある。『眼の壁』もまた、2億円の手形詐欺から始まりながら、会社の体面や組織の保身、金の流れへと物語が広がっていく。ただ、萩崎の出発点にあるのは、社会悪を暴きたいという大きな正義感ではない。父の恩人でもある関野を救いたい、真相を知りたいという個人的な思いだ。だからこそ、小泉は萩崎を強い主人公として見せすぎず、目の前の違和感をひとつずつ確かめながら進んでいく男として演じている。その等身大の佇まいがあるから、事件の奥行きが増していくほど、萩崎が巻き込まれていく怖さもより身近に迫ってくる感覚がある。
穏やかで実直な人物の中に、どうしても譲れない思いがある。小泉が演じる萩崎は、その魅力がよく生きた主人公だ。手形詐欺の真相を追う物語でありながら、『眼の壁』で強く残るのは、組織の論理に飲み込まれそうになりながらも、関野を救いたいという思いだけは手放さない萩崎の姿である。本作は、松本清張ミステリーならではの重厚なサスペンスと、小泉の静かな芝居が生む緊張感をあわせて楽しめる作品だ。
文=川崎龍也











