©「日本ボロ宿紀行」製作委員会
とはいえ、春子は決して何でもできる主人公ではない。慣れない仕事に戸惑い、営業が思うようにいかなければ落ち込む。それでも、父が残したものをこのまま終わらせたくないという思いを胸に、龍二の背中を押し続ける。強がりと心細さが同居した春子の姿を、深川は大きな感情表現のなかにも細かな揺れを残しながら演じている。
そんな春子と龍二の関係が少しずつ変わっていくところも、本作の大きな魅力だ。最初は何かと衝突していた2人だが、各地を巡り、営業や宿での時間をともにするなかで、次第に互いへの理解を深めていく。そしていつしか、そのちぐはぐな掛け合いすら心地よく感じられるほど、2人の名コンビぶりに引き込まれていくのだ。
©「日本ボロ宿紀行」製作委員会
その変化が感じられる回のひとつが、第10話だろう。営業先で歌う龍二を待っていたのは、思うようにはいかない現実だった。かつてヒットした歌も、時代が変われば以前と同じように届くとは限らない。そんな龍二を前に、春子は何を考え、どう動くのか。第1話では父が残したCDを売ることに必死だった彼女の視線が、旅を重ねるなかで少しずつ変わっていることが見えてくる。
そして、春子と龍二の旅と同じくらい存在感を放つのが、タイトルにもなっている"ボロ宿"である。本作に登場するのは、日本各地に実在する宿。古びた外観、年季の入った畳や廊下、昔から使われてきた家具。華やかなホテルとは違うが、そこには長い年月を積み重ねてきた場所にしかない味わいがある。しかも、登場するのはいずれも実在する宿。春子と龍二の旅を追いかけているうちに、いつしか自分もその宿を訪ねてみたくなっているかもしれない。
©「日本ボロ宿紀行」製作委員会
「日本ボロ宿紀行」には、派手な事件が次々と起こるわけではない。けれど、その何気ない時間を見続けていると、いつの間にか春子と龍二のことが気になってくる。なぜ春子はここまで龍二と旅を続けるのか。龍二はこの旅のなかで何を見つけていくのか。春子と龍二とともに、日本各地を巡る少し変わった旅を楽しみたい。
文=川崎龍也











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