【タカラヅカ】花組・明日海りおの念願がかなった「ハンナのお花屋さん」

明日海りお
明日海りお

本作を知らない人にはタイトルから、かわいらしいファンタジー作品かと思ってしまうかもしれない。しかし、実はそうではない。幕が開くと花々に彩られた舞台に目を奪われるが、内戦や移民問題にも触れている。こだわりの舞台装置、音楽、振付とともに繊細に描かれる物語の中では、"本当の幸せ"とは何かを考えさせられる。そして、「世界一幸せな国」といわれるデンマークの言葉で、日本でも最近注目され始めている「ヒュッゲ」(居心地がいい時間や空間)を思い出させる作品でもある。

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

主人公のクリスは、デンマークの名家出身でありながらロンドンで花屋を開業している。気鋭のフラワーアーティストなのに、ちょっとヌケたところもある、愛されキャラだ。タカラヅカでは出演者に合わせて脚本を書くことも少なくないが、クリス役は明日海りお以外考えにくい。自然豊かな静岡で育ち、多忙な花組トップスターでありながらも、彼女の周りには不思議とゆっくりとした時が流れる。そして、何より自身も花が大好きという明日海はクリスそのもの。役作りのため、明日海は「お花屋さん」のメンバーたちと、デンマーク出身のフラワーアーティスト、ニコライ・バーグマンの元を訪れ、実際にフラワーアレンジメントを体験したというエピソードもあるくらいだ。

第1幕は、クリスの花屋「Hanna's Florist」が舞台。あふれんばかりの花々が飾られ、ナチュラルテイストでまとめられたおシャレな店だ。"ゆるふわ"な店長クリスの元、店員たちは伸び伸びと仕事をしていて、まさに理想の職場。傍には頼れる相棒、切れ者のジェフ(瀬戸かずや)もいる。そこに「老舗百貨店に出店しないか?」という誘いが舞い込む。それはフラワーアーティストとして、ビッグになれるまたとないチャンスだった。果たしてクリスは、この申し出を受けるのか。

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

やがて、クリスの父・アベルの訃報が届き、第2幕ではデンマークのクリスの故郷へと舞台が移る。なぜクリスの店が「ハンナのお花屋さん」なのか、彼の過去とともにその謎が解き明かされていく。若かりし日のクリスの父・アベルを演じるのは芹香斗亜。花組から宙組へと組替えとなった芹香にとって、これが花組時代最後の作品。御曹司らしい品の良さと誠実な雰囲気がぴったりの役どころだ。

アベルは森で花を売りながら暮らしている、妖精のような少女・ハンナ(舞空瞳)と恋に落ちる。そして、2人の間に生まれたのがクリスだ。彼は過去と向き合う中で"心の声"に耳を傾けることの大切さを学んでいく。仙名彩世が演じる運命の女性・ミアとの出会いもまた、クリスの心を動かしていく。内戦で荒廃したクロアチアからたった1人でロンドンにやって来た彼女は、心に深い傷を抱えている。タカラヅカのトップ娘役には珍しい役どころだが、演技派の仙名はこれをリアルに演じてみせる。

仙名彩世(写真左)

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

また、花組の若手スターが演じる店の面々も、個性的で出身国は多種多様。リーダー格のライアン(綺城ひか理)はアイルランド、やんちゃなヤニス(飛龍つかさ)はギリシャ、体育会系のヨージェフ(帆純まひろ)はハンガリー、そして店のWeb関連とカフェ担当でエストニア出身のトーマス(優波慧)はナレーターの役割も兼ね、店の出来事をテンポ良く紹介していく。さまざまな国から、さまざまな思いを抱えながらやって来た者たちが「ハンナのお花屋さん」でがんばっているのだ。

この作品が希求するのは、いわゆる「夢の世界」ではない「今の時代」の私たちが心の奥底で求めている"幸せ"であり"豊かさ"だ。きっと観劇後には、いつもの高揚感とはひと味違う穏やかな気分を感じられるだろう。

文=中本千晶

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放送情報

『ハンナのお花屋さん —Hanna’s Florist—』('17年花組・TBS赤坂ACTシアター)
放送日時:2018年12月2日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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