宙組・真風涼帆がカリスマ性を発揮!異色の宝塚歌劇『FLYING SAPA -フライング サパ-』

真風涼帆
真風涼帆

注目の異色作『FLYING SAPA ーフライング サパー』が、7月のタカラヅカ・スカイ・ステージに登場する。物語の舞台は遠い未来、かつて水星と呼ばれていた惑星ポルンカである。気候変動と戦乱により滅亡寸前となった人類の一部が、ポルンカに脱出して生き延びているのだ。

そこでは、個人の意識は全て「へその緒」と呼ばれるデバイスを通じて政府に吸い上げられ、管理されている。「危ない感情」も政府に察知され、消去されてしまう。みんな同じような服を着て、無表情に生きている。「人と違うこと」は罪。平和で安全だが、退屈な世界でもある。

ポルンカが舞台となる1幕では、衣装、舞台装置、振付などを融合させて、この不気味な世界観を作り上げてみせる。ことに耳に残るのが三宅純による音楽だ。

作者の上田久美子によると、スマートフォンの普及がこの作品のアイデアが生まれるきっかけだったとのこと。言われてみれば、今や個人情報も嗜好もスマホが吸い上げてくれるおかげで、私たちは心地良いタコツボ部屋のような世界に安住しつつある。遠い未来のことだと思っていたこの話、まさに私たちが生きる「いま」に繋がっている。

星風まどか(『FLYING SAPA -フライング サパ-』より)

(C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

オバク(真風涼帆)もまた、過去の記憶を消され、政府のスペシャリスト兵士として危険思想を持つ人物を保護する任務に従事している。ある日、保護しようとした女性が、なんと唯一絶対の支配者「総統01」の一人娘ミレナ(星風まどか)だった。オバクはミレナの「SAPAに連れて行って欲しい」という要望を叶えてやることにする。

ポルンカのクレーター「SAPA」、それは「総統01」の支配から逃れた人々が集まる吹き溜まりのような場所だった。一転して2幕、舞台がSAPAに移ると物語は一気に動き始める。喧騒と無秩序の渦に巻き込まれ、見る側も見事に気分が切り替わる。SAPAで生きる実感を取り戻したオバクも自身の過去と向き合うこととなり、ポルンカ政府の秘密が明らかになっていく。

真風涼帆のオバクは、記憶も感情もないアンニュイな1幕も不思議な魅力を放つのだが、記憶を取り戻しとたんに圧倒的なカリスマ性を発揮してしまうところがまさにスターの本領発揮だ。振り返ると、これまでの主演作『日のあたる方へ ―私という名の他者―』(2013年)はジキルとハイドの物語だったし、『ヴァンパイア・サクセション』(2016年)は文字通りヴァンパイアが人間となる話だった。もしかすると真風涼帆は「覚醒させたくなるスター」なのかも知れない、ふと、そんなことを思う。

この物語はミレナの成長物語でもある。悲惨な過去を乗り越えて、知的な大人の女性へと変化していくさまを、星風まどかが地に足のついた芝居で見せ、この作品に一本しなやかな筋を通していた。

芹香斗亜

(C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

夢白あやのイエレナは、エキセントリックな「今」と無垢だった「過去」の激しいギャップから、この女性が抱え込んでしまった苦しみを表現してみせる。そんな彼女を見守るノア(芹香斗亜)の存在は、殺伐とした物語世界の中の癒しであり、ブレない良心だ。

宙組という組は、一見組の名に相応しく現代的でスタイリッシュなようでいて、実は人間くさい役者が多い印象がある。この作品でも、1幕で少年役、2幕で母親役を見せる松風輝や、この作品のキーパーソンでもある難民ブコビッチを演じる穂稀せりなど、気になる役者は枚挙にいとまがない

最後の最後にタイトル『FLYING SAPA』の意味がわかって腑に落ちる。そして、ここはひとつ私も面倒な現実世界に飛び立ってみようかという勇気も湧いてくる、ある意味、極めて「宝塚らしい」作品でもあるのだ。

文=中本千晶

この記事の全ての画像を見る

放送情報

『FLYING SAPA -フライング サパ-』('20年宙組・梅田芸術劇場)
放送日時:2021年7月11日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

記事の画像

記事に関するワード

関連人物