宝塚歌劇といえば『ベルサイユのばら』やレビューのイメージが強いが、実は日本物の名作も数多い。時代劇専門チャンネルでは、その日本物にスポットを当てた「華麗なる宝塚歌劇の世界~Season3~」を放送中。10月の放送には2019年雪組で上演された『壬生義士伝』が登場する。
作品の前後には、宝塚歌劇ファンとしても知られるアナウンサーの中井美穂を案内役に、毎回ゲストを迎えて作品の見どころを紹介。今回は吉村貫一郎役を演じた望海風斗が登場し、上演時の思い出や役作りのこだわりなどについて語った。
雪組のトップスターとして活躍した望海は、本年4月に宝塚歌劇団を退団したばかりだが、コンサート『SPERO』で早くも再始動。抜群の歌唱力と人間味あふれる芝居に定評があり、今後の活躍が期待されている。『壬生義士伝』もそんな望海の持ち味が遺憾なく発揮された作品の1つである。
望海にとって「ふるさとのような作品」だという『壬生義士伝』。「悲しいお話なのですが、今振り返ると心温まるというか、ふるさとに包まれているような大切な作品です」と語った。主人公・吉村貫一郎は家族を養うために故郷の南部藩を脱藩し、新選組に入隊した男。演出の石田昌也が「新選組で並ぶとセンターには立てない」と言うように名だたる新選組隊士の中にあっても朴訥とした人柄で、舞台上でお金を数えたり土下座したりするなど、宝塚歌劇のトップスターとしては異例の役柄だ。だが、実は北辰一刀流免許皆伝の剣豪でもあり、剣を握ったら人が変わる一面も。
そんな貫一郎が何より大切にしたのは、家族だった。望海も父親の気持ちを探究した結果、「お父さんを見ると切なくなってしまう」境地にまで至ってしまったとか。ちょうど公演中に迎えた父の日には子どもたちを演じる下級生が手紙やプレゼントをくれたり、「いつもはごはんを食べさせてあげられないので、今日は好きなだけ食べてと(笑)」みんなでご飯を食べに行ったりしたというエピソードも披露した。
貫一郎の妻しづと京都の商家の娘みよの二役を演じた元雪組トップ娘役の真彩希帆は、望海にとって「とても信頼できる、頼もしい存在」。「何がなんでもやり遂げようとする強さがあるので、お互いの目標がどんどん高くなっていく。自分自身も加速させてもらえた」と、真彩との芝居を振り返った。
貫一郎の幼なじみであり南部藩の蔵屋敷差配役となった大野次郎右衛門(彩風咲奈)とのラストシーンは、涙なしには見られない。この役を演じた彩風とは「友達や親子など、いろいろな関係を演じてきた。(貫一郎と次郎右衛門は)多くを語り合わないけれど、お互いを思い合っている。その空気感を出せたのも、これまでの経験があったからだろうなと思います」と語った。
「もう一度見たいプレイバックシーン」についても明かした望海。中井の「宝塚の日本物の魅力は?」という問いには「美しさと、人を思いやる心」と答えた。異色作といわれた『壬生義士伝』だが、武士としての義、家族愛、友情といった人間ドラマが凝縮された美しい作品でもある。その意味で、まさに宝塚歌劇の日本物の王道といえるのかもしれない。
文=中本千晶
放送情報
壬生義士伝('19年雪組 宝塚大劇場) 解説ゲスト:望海風斗
放送日時:2021年10月18日(月)22:00~ ほか
チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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