宙組・真風涼帆が持ち前の鷹揚さと卓越したバランス感覚で詐欺師を演じたミュージカル『アナスタシア』

真風涼帆
真風涼帆

ミュージカル『アナスタシア』が、いよいよタカラヅカ・スカイ・ステージに登場する。ロシア革命後に惨殺された帝政ロシア最後の皇帝・ニコライ2世の一家のうち、末娘アナスタシアだけは生き残っていたという「アナスタシア伝説」をモチーフとした作品である。アニメ映画の『アナスタシア』に着想を得て制作され、2017年よりブロードウェイでロングラン上演、その後世界各国で上演されてきたミュージカルだ。

物語の舞台は革命から10年の時を経た1927年のサンクトペテルブルクだ。詐欺師のディミトリ(真風涼帆)は「皇女アナスタシアを見つけた者には多額の褒賞金が支払われる」という話を聞きつけ、一攫千金を企む。

そこに飛び込んできたのが記憶喪失の娘、アーニャ(星風まどか)だった。自分のルーツを探し求めるアーニャをそそのかし、ニセ皇女に仕立て上げようとするディミトリだったが、「教育」が進むほどに変わっていくアーニャに対して次第に「彼女は本物の皇女なのではないか」と思い始め、尊敬と愛情を抱くようになる。

星風まどか
星風まどか

ロマノフ王朝の煌びやかな宮廷の世界から、革命後の世界へと一気に展開する幕開き。ロシアの大地でしたたかに生きる人々、あるいはパリの街の華やかな雑踏...群衆シーンの迫力もまた、宝塚の舞台ならではの魅力である。

全編通じて駆使される映像が美しくダイナミックだ。とりわけロシア脱出の際、雪景色の中を疾走する列車のシーンは必見。重厚な楽曲の数々が、台詞だけでは表現できない微妙な心情の変化を伝えてくれる。

本来、タイトルロールでもあるアナスタシア(アーニャ)が主人公の作品だが、宝塚版ではディミトリが主人公であり、ディミトリがほんとうの愛を見つける物語となっている。ブロードウェイより新たに提供された楽曲「She Walks In(彼女が来たら)」にも注目だ。

このディミトリを演じる真風涼帆は、宙組トップスターに就任してから3年(本作上演時)。まさに円熟期を迎えた真風が、アーニャを大きな器でしっかりと受け止めてみせる。詐欺師として混乱の世を生き抜くことだけに必死だったディミトリが、アーニャとの出会いで変わっていく。持ち前の鷹揚さと卓越したバランス感覚が魅力の真風には、こういう役どころがよく似合う。

ヒロイン、アーニャ(星風まどか)の気高さと優しさがマリア皇太后を、グレブを、そしてディミトリを変えて行くくだりには圧倒される。星風はこの後に組替えとなり、花組のトップ娘役となったため、これが宙組トップ娘役としての最後の作品となった。グレブ・ヴァガノフ(芹香斗亜)は新政府における権力者であり、基本的にはアーニャとディミトリを追い詰める敵役だ。だが、コミカルな見せ場もあり、芹香らしい明るさと心に秘めた思い、その陰影が魅力的である。

芹香斗亜
芹香斗亜

桜木みなとが、ディミトリの相棒ヴラド・ポポフ役で洒脱さを見せる。ヴラドの恋人リリーを演じるのは、本来は男役であり、このたび雪組へと組替えとなった和希そらだ。芝居の巧さとショーストッパーぶりで、2幕からの登場にもかかわらず抜群の存在感を示す。

そして、この物語のキーパーソンともいえるのがマリア皇太后だ。この役を演じる寿つかさは、『神々の土地』(2017年)でもマリア皇太后を演じており、2作品で同じ役を生きるという稀有な経験も芝居にさらなる深みを与えているようだ。

楽曲の力、迫力の舞台転換と美しい映像、そしてミステリアスでスリリングでロマンチックなストーリー...ミュージカル王道の魅力が存分に堪能できる作品である。

文=中本千晶

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放送情報

『アナスタシア』('21年宙組・東京宝塚劇場・千秋楽)

放送日時:2022年2月6日(日)21:00~ 

チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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