「座頭市」のシリーズ全26本(1962~1968・1970~1973・1989年)には及ばないが、「悪名」(1961~1969・1974年)も大映で15本、後に勝プロダクションで1本作られた勝新太郎の代表作。今東光の小説を原作に、河内生まれの暴れん坊で、女に優しく曲がったことが大嫌いという侠客・朝吉の活躍を描いている。彼とコンビを組むのが、腕も度胸も人一倍で、朝吉よりもドライなところがある弟分のモートルの貞。猪突猛進派の勝と、歯切れのいい関西弁をまくし立てて危機を乗り越えていく田宮二郎扮する貞の見事な掛け合いが痛快な作品だ。
1961年に始まったシリーズは、第1作『悪名』(1961年)と『続・悪名』(1961年)が物語的には1セット。度胸を買われて関西のやくざたちから一目置かれる存在になっていく朝吉が、自らはやくざを嫌いながらも彼を慕う者たちに担がれて組を結成。だがやがて朝吉に召集令状が届く。戦地に向かう前、朝吉が貞にこんな悪名はいらないから組を解散しろという場面には、義理や掟に縛られた任侠映画とは違う、朝吉の人間的な魅力が出ている。しかし朝吉が戦地へ行っている間に、貞が殺される。この俯瞰で撮られた(大映撮影所の駐車場で撮影されたと言われる)貞の雨の中の刺殺シーンが印象的で、最初の2作品は強烈なインパクトを残した。
物語は第2作で完結したが、シリーズの人気は冷めず第3作『新・悪名』(1962年)が作られた。ここからは貞の弟・清次役で田宮二郎が復活。舞台を戦後に移し、朝吉と清次が悪党たちを叩きのめす内容になっていく。また度胸も愛嬌もある朝吉が、女親分に人柄を惚れ込まれるのも定番で、第1、2作の浪花千栄子、第5作『第三の悪名』(1963年)では月丘夢路がその役回りを演じた。第4作『続・新悪名』(1962年)には、朝吉が肩入れする少女歌手の母親役でミヤコ蝶々も出演している。
第6作『悪名市場』(1963年)には、朝吉と清次の偽物として芦谷雁之助と芦谷小雁が登場。ほかにも藤田まことなど、コメディ色豊かな俳優陣が出演し、盲人として生きることに影を湛えた「座頭市」とは違い、「悪名」は朝吉の陽気なキャラクターが作品全体を引っ張る娯楽シリーズになっている。
勝はほかにも、軍上層部の理不尽な暴力に反逆する無鉄砲な二等兵に扮した「兵隊やくざ」(1965~1968・1972年)シリーズを含めて、1960年代を大車輪の活躍で駆け抜けた。
その後は黒澤明監督の『影武者』(1980年)の主演降板、スキャンダラスな事件やその豪快な人柄による数々の伝説で知られたが、勝はやはりいい意味での「役者バカ」という印象が強い。「座頭市」はアジアでも人気があり、香港のカンフースター、ジミー・ウォングと市が最後に対決する『新座頭市 破れ!唐人剣』(1971年)が作られたことがあるし、台湾では「座頭市」のキャラクターを使った偽物映画も作られた。またキューバでは特に「座頭市」の人気が高く、勝新太郎は国賓待遇で国に呼ばれたことがあった。その魅力は海外へも通じるもので、いままた時を超えて勝新太郎を初体験する人がいたら、その虜になるに違いない。
文=金澤誠
金澤誠●映画ライター。「キネマ旬報」、「日刊ゲンダイ」、時事通信映画評などで執筆。日本映画をメインに、これまで約1万人の映画人に取材。著書に「誰かが行かねば、道はできない」(キネマ旬報社・木村大作と共著)、「音が語る、日本映画の黄金時代」(河出書房新社・紅谷愃一・著、取材・構成・文章を担当)、「新・映画道楽 ちょい町エレジー」(KADOKAWA文庫・鈴木敏夫・著、取材・構成・文章を担当)などがある。2022年は後半に入って日本映画の力作が揃って、嬉しい限り。
放送情報
座頭市物語
放送日時:2022年11月5日(土)8:00~、17日(木)14:15~
座頭市地獄旅
放送日時:2022年11月5日(土)10:00~、17日(木)16:00~
座頭市血煙り街道
放送日時:2022年11月5日(土)11:45~、17日(木)17:40~
チャンネル:WOWOWプラス
悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)9:20~、11日(金)17:00~
続・悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)11:10~、17日(木)7:10~
新・悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)12:55~、22日(火)17:20~
続・新悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)14:45~、25日(金)17:10~
第三の悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)16:35~
悪名市場
放送日時:2022年11月4日(金)18:50~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
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