酒井高徳が振り返るブンデスの記憶。バイエルンの凄みや、"地獄"の残留争い

ドイツ ブンデスリーガは5月16日、新型コロナウイルスによって中断したサッカー界において、ヨーロッパ主要リーグの中でいち早く再開した。残留争いを戦うFW大迫勇也(ブレーメン)に、状態を上げているフランクフルトの日本人コンビMF長谷部誠とMF鎌田大地と日本人も活躍している。圧倒的な強さを誇ったバイエルンが前人未到の8連覇を達成したが、残留争いは激しく続いている。

名門ハンブルガーでかつて主将を務めたヴィッセル神戸DF酒井高徳が、白熱するこのリーグについて語った。

酒井はアルビレックス新潟から2011-12シーズンにシュトゥットガルトに加入し、15年にハンブルガーへ移籍。16年にはチームは低迷する中、指揮を執るマルクス・ギズドル氏(現FCケルン監督)からブンデスリーガ史上初の日本人主将にも任命された。8年間のドイツ生活で酒井が感じたこととは――。さまざまな経験をした29歳DFがブンデスリーガの魅力について余すことなく話した。

■バイエルンは圧倒的。衝撃的だった選手は...

――ドイツでの8年間はいかがでしたか?

1人のサッカー選手として大きくしてもらったなと思います。色々な世界の文化に触れて、自分のあり方、立ち位置の作り方、コミュニケーションの仕方、サッカーを通して人に必要なものを築き上げられました。毎日の練習から刺激があって、世界的に有名な選手と試合できて、毎試合100%を出さないと自分がチームの足を引っ張ってしまうという環境。サッカー選手として大きく成長できたと思います。キャプテンをして、信頼してもらえる人間になれたのは大きかったですし、サッカー面でも毎試合新しいシチュエーションが出てきて、学ぶことが多かったです。失敗して学んで、の繰り返し。レベルが高くて、ブンデスでの毎日は刺激的でした。

――通用しないと感じたことはありましたか?

思ったよりも通用していたんですけど、「少し足りないな」という「少し足りない」部分が意外に大きかったですね。やれると思っていたのだけど、最終的に自分がチームの足を引っ張ってしまう。Jリーグ時代には、サッカーに起こる出来事ひとつひとつを真剣に捉えていなかったなと。負けている部分をなんとなくやり過ごせたけど、海外は負けに対してシビア。それは自分が一番勘違いしていた部分ですね。

――試合をこなしていく中で衝撃的だった選手やチームはありますか?

チームはもちろんドルトムントとバイエルン。この2チームは強烈で、守るので精一杯でした。特にバイエルンは守っていてもやられる気しかしないし、攻めていても崩せる気がしない。この2チームはずば抜けているなと思いました。対面した選手で一番凄いと思ったのがフランク・リベリー(バイエルン)ですね。格が違う。リベリーだけには終始やられていましたね。

――具体的にはどういうところでしょう。

ドリブラーのイメージがあるけれど、ボールを持つところと持たないところの判断が絶妙に良い。ドリブラーの対策としてDFは最初に"ボール持たせない"選択をとります。でも、ボールを持たせないように寄ろうと思ったら簡単にワンタッチではたいてくる。「そんなに強引に仕掛けてこないんだな」と思って少し間を開けると、急にパッと前を向いて、テンポを上げてドリブルを仕掛けてくる。使い分けが上手でした。DFのダビド・アラバ(バイエルン)とのコンビネーションも凄く良かった。オーバーラップを使われたり、ワンツーをしてきたり、1人で2人を相手にしていたのでお手上げ状態でした。

酒井選手が衝撃だったというリベリー

写真:アフロ

――バイエルンとドルトムントが強い秘訣は。

一言でいうと、細かい。少し足りないと思っていた部分の精度、技術能力の高さはずば抜けて高いです。基礎技術、止める蹴る、ポジショニング、守備...完ぺきにできているのがバイエルン。ポゼッションされている時はパススピードや人の入れ替わりが速い。細かい部分が完成されたチームという感じがしますね。ドルトムントはその分若い選手が入るから、勢いがあって、バイエルンとは違う完璧さがありました。

――戦っていて印象深かった試合はありますか?

(ユップ・)ハインケスが監督をしていてリーグ、CL、ポカールの3冠を達成した2012-13年のバイエルン戦ですね。カウンターができる、遅攻ができる、引いて守れる。プレッシングもできる、と弱点が無さ過ぎて。6-1で負けました。超べた引きでもどうやって勝ったら分からない。成す術なしでした。

■ドイツはサッカーのトレンドが変化しやすい

――ブンデスリーガではどういう選手が評価されるのでしょうか。

ドイツはやっぱり、1対1で勝てるか勝てないか。守備だけではなくて、攻撃でも相手をかわせるかが注目される。あと、これは世界共通ですが、結果が出せる良い選手、何かに特化している選手は評価されます。実際、自分は安定感ある選手で守備的と見られていたけど、攻撃の精度、回数がないと評価がついてこない。ドイツにおいて守備で評価がされるのは2010年あたりで終わったんです。昔は4枚の大きいDFがいて、ヘディング強くて...という感じでそういった選手が評価されましたけど、僕が来た時は攻守両面が求められていました。守備の選手だったけれど、攻撃で結果を出さないといけなかったんです。

――今おっしゃっていたように、ドイツのサッカーもトレンドが変わるのでしょうか?

ドイツは面白くて、世界のトレンドに影響されやすい。僕が来てばかりのときは4-2-3-1や4-3-3が流行っていて、そこから変わっていきました。徐々に3-5-2や3-4-3が流行って。今もドイツは3バックが多いですよね。

具体的にいうと、昔はロングボールが多かったのですが、ポゼッション志向になってきました。この8年で戦術的なサッカーをするようにもなりました。あとは、(チームによって)色はあるけれど、攻守において規律を守るサッカー。それを体現したのが2014年のW杯優勝だと思います。あと、ドイツは監督も若くなっているので、よりクリエイティブになっています。ドイツサッカー協会も新しいトレンドをレクチャーしています。その中でも規律をしっかり守れる、戦術理解ができる選手が重宝されているとは思います。

――柔軟に対応しないとついていけなくなりますね。

ドイツ生活では、監督の言うことを聞くことを大事にしていました。監督の言うことを理解できる、何を求めているのかを組み立てて体現するというのはよくやっていましたね。だからか、ドイツでは「お前は監督をやったほうが良い」と、すごく推されたんですよ。

――そういうところもあってキャプテンに抜擢されたと。

そうなのかな、と言うしか無いですね(笑)。当時の監督は、チームにきて数週間してから主将を僕に決めました。リーダーシップを取って若い選手とのコミュニケーションも図っていたのが要因だと。でも、一番は「高徳が何か言ったら他の選手はしっかり聞いている」からだと。日本は、キャプテンを色々な人で回すこともあるじゃないですか。でも、ドイツでは"キャプテンとして確立された選手"がいる。自分が想像していたキャプテン像よりも大きいものでした。最初は「日本人で大丈夫なの?」と言われていたけれど、「高徳はちゃんとドイツ語も喋れる」と監督がフォローしてくれました。

■地獄の残留争い「サコの気持ちは察することが出来る」

――ドイツでの残留争いはいかがでしたか?

簡単に勝てるチームがひとつもない。残留争いしているとき、全部が負の連鎖になる。下のチームには「負けたら俺らは終わりだ」と。緊張感がすごいです。残留争いは1試合も気が抜けないので、地獄でした。

――大迫選手がその真っ只中にいます。

あんまり連絡をとってないですが、サコ(大迫)の気持ちは察することが出来ますね。どういう選手か分かっているので、思い通りにいってないのかな、とも。それはサコ本人の問題じゃなくて、チームの問題があると思います。でも、そこでどう強くいくか。しんどい気持ちはとても分かります。

ブレーメンで奮闘する大迫選手

写真:アフロ

――大迫選手のブレーメンは入れ替え戦に回る可能性もあります。この入れ替え戦の印象を教えてください。

僕は経験したことはないんですけど、見ている感じでは、立ち上がりで1部のチームが2部に飲まれてしまうと、すごく難しくなるゲームかなと思います。1部が最初からしっかり展開していれば勝てるところはあると思いますけど、2部もこの1試合に懸けている。ドイツでは、体と体の戦いになるゲームは1部、2部、3部と関係なく強さもあるので。ホーム&アウェイという形ですけれど、気が抜けない試合展開になっていると思います。長い間1部が入れ替え戦を勝っていますが、僕が見ているところでは、ギリギリ勝っているので、難しいのかなと思いますね。実際、僕がハンブルガーへ行く前の年(2014-15シーズン)は、ハンブルガーが2試合目の延長戦で勝ちを決めて残留しているので、それぐらい厳しい戦いになるのかなと思います。

――入れ替え戦でのポイントはどういったところでしょう?

(1部のチームは)相手と同じカードで戦わないことですね。ロングボールとか、力で来るところをしっかり耐える。すると、2部は勢いがなくなってくる時があるので、そこでしっかり自分たちが叩けるかというところだと思います。

2部で戦ってみて思ったことは、1部レベルのチームと戦う時、最初の勢いで飲まれてしまったら試合が難しくなる。ただそれを0-0だったり、あるいは先制点を取ってしっかり時間を耐えたりすれば、相手もオープンな試合展開にしてきて、ボロが出てくる。相手の時間帯の時にどこまで耐えられるか。特に入れ替え戦では失点したくないので、耐えられるかどうかも大事かなと思います。

――最後に。鎌田選手や長谷部選手含め日本人選手の活躍についてどう感じているかを教えてください。

長谷部さんは言わずもがな。経験でサッカーをしていて、素晴らしいの一言です。日本人としても誇りに思うし、アジア人歴代ブンデス出場数1位。サコはいろんなチームに行って結果を出している。(鎌田)大地は目まぐるしく成長しているドイツの良さと自分の良さをうまくミックスして体現していますね。香川(真司)くん以来、トップ下タイプで活躍する選手がいなかったので、心から頑張ってステップアップして欲しいと願っています。

インタビュー・文=小杉舞(Football ZONE web)

この記事の全ての画像を見る

放送情報

「19/20 ドイツ ブンデスリーガ」

【19/20シーズン】全306試合放送!

チャンネル:スポーツライブ+ 他

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

記事の画像

記事に関するワード