元ひきこもりの美術家・渡辺篤がアートで社会を変える

渡辺 篤《アイムヒア プロジェクト》2019年
渡辺 篤《アイムヒア プロジェクト》2019年

撮影:井上桂佑

――心の傷を持った者たちと協働するプロジェクトを多数実施されていますが、ひきこもりにまつわる事情を作品にしようと思ったきっかけは?

「学生時代から学校では教えてくれない社会学みたいなことに興味を持っていたんです。例えば、路上生活者と一緒にテントで暮らして、その路上の視点からでしか分からないものを手に入れて、共同で何かを起こすとか、LGBTという言葉もあまり聞かれなかった時代に、知人の性的少数派の人と共に暮らして作品を作るとか。そこでは、自分の差別性とか、無知であることに気づいていく過程そのものをプロジェクト型の作品として制作していました。疑問すら立てなくてもいいものにされてしまっていることにいちいち気になっていく時期がありました。

それは、僕が学生時代にうつになったこともきっかけとしてあるんです(ひきこもりを終えた時期に全快しちゃいましたが)。それまでは自分のことを普通だと思っていたのに、『どうやら自分が少数派になってしまった』と気付いた時に、無自覚に自分がいつも誰かを排除してきたことに対しても今一度眼差しを向ける必要があると感じたんです。芸術大学の学生時代に、そういうことに一気に興味が湧いてしまって。その延長で、大学を出た後に、自分のひきこもりの経験もあって、ひきこもりにまつわる関係性の課題をテーマにするのも自然な流れでした」

――2018年より展開されている、ひきこもりをはじめとする孤立を感じる人々の声や当事者事情を当事者と協働する形で社会に向け発信し、アートが社会に直接的な作用をもたらす可能性を模索するアートプロジェクト「アイムヒア プロジェクト」への思いについて教えてください。

「『アイムヒア プロジェクト』というのは元々一つの作品の名前で、ひきこもりの人々自らが撮影した各々の部屋の写真を募集して一緒に写真集を作るというものです。丁寧に規約の開示を行い、ふさわしい利益分配を行うなど、プロセスにすごく重きを置きながら、孤立・孤独状態にある人々と社会に対して何かアプローチをしていこうというのがスタートでした。社会に背を向けた人々が、自ら自分の生活や存在を今一度『私はここにいる』というメッセージを社会に発信する呼びかけを行って、架空のグループみたいなものを作って、その後も様々な作品形式で作ってきたという経緯ですね。

あくまで私は、ひきこもりって本人以外の人が無理矢理やめさせようとするものではないと考えていて、今、孤立・孤独状態にある人は、望んでなった人もやむを得ずそうなった人もいますが、まず"その人がそこに在る"ということを尊重しなきゃいけないと思っています。『人とつながらなきゃだめだよ』ということを前提にアプローチするつもりはなくて、僕が作ったこのケースに一緒に乗っかりたい人とやるという程度のことなんです。人とつながりたくない人に強要するつもりはないんです」

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放送情報

ART & CULTURE ~ 今を生きる表現者たち 現代美術家:渡辺 篤
放送日時:2023年7月22日(土)11:30~ 他
チャンネル:スポーツライブ+ 他
※放送スケジュールは変更になる場合があります

【配信情報】
ART & CULTURE ~ 今を生きる表現者たち 現代美術家:渡辺 篤
放送日時:2023年7月14日(金)12:00〜12月31日(日)
https://spoox.skyperfectv.co.jp/static/sales/content/art-culture/

【展覧会情報】
「あ、共感とかじゃなくて。」
会 期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)
休館日:月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会 場:東京都現代美術館 企画展示室 B2F
詳細はウェブサイトをご確認ください
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/

「NACT View 03 渡辺 篤(アイムヒア プロジェクト)私はフリーハグが嫌い」
会 期:2023年9月13日 (水)~12月25日(月)
開館時間:美術館の開館時間に準ずる
会 場:国立新美術館 1Fロビーほか[東京・六本木]
詳細はウェブサイトをご確認ください
https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/nactview-03/index.html

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