――医療や福祉でなく、アートでしかできない活動にはどのような可能性があるのでしょうか?
「例えば、医療や福祉というのは、まさに困難を抱え、痛みを抱えている人と出会う場が必要ですが、アートはここにいない人とでも想像力によって繋がることができる。
孤立・孤独という社会問題が根源的に抱えている難題は、より深い困難を抱えている人こそ、姿が見えづらいということがあるのです。それに対して現代アートは方法に縛られず活動することができるメディアだと思っているので、例えば、『私と対話をしてください』と応募フォームに書いてくれた、どこか遠くの場所にいる人の所にまで会いに行くということも、僕の作品ではやれるわけです。つまり、ジャンルとしてこうあらねばならないという縛りがほぼないメディアであるし、だからこそ痒い所に手が届くというか、縛りを越えること自体が価値になる表現ジャンルだと思っています。
ひきこもりの人の声を聞くことや、そのストーリーを作品にする時に、現代アートが他のあらゆるメディアより優れていることは、全世界的にアートという概念について共通理解があるところだと思います。どんな国にも、アートの歴史があって、美術館があるし、ギャラリーがある。アートに対して人々は目を向けるわけです。『その作品を持ってきてほしい』と言われたら、僕が聞いた誰にも聞かれることのなかったひきこもりの方の言葉が、地球の裏側の展覧会場に展示され、もし美術館にそれが収蔵されたら200年、300年後の人もそれを観るわけです。誰にも聞かれることのなかった悲しみや怒りなど、本人にとってはどうしようもできないような気持ちが、より多くの人類や未来のさまざまな人の生きづらさに寄り添う可能性も出てくる。そういう多くの人に届くことができるツールでもあるということがアートの可能性だと思っています」
――作品のここを見てほしい、想像してほしいなど期待することを教えて頂けますか。
「僕の作品の多くは、誰かと一緒に作っているんです。例えば『同じ月を見た日』というプロジェクトであれば、僕は編集者のような立場で、やることと言えば送られてきた月の写真をどのように造形化するかを考えて制作するということなんですよね。そんな中で僕が見てほしいのは、月の写真を撮った人たちがどういう人たちなのかを想像するということです。プロジェクト参加者募集には、"コロナ禍に孤独感、孤立感を感じている人"という条件があって、応募してきた人は障害がある人もいれば、ひきこもりもいるし、いろんな生きづらさ、孤立感を感じたことがある人たちなんです。そんな人たちが撮った月の写真には、少しずつその人の生活圏とかコロナ禍の時間の変遷みたいなものが写り込んでいたりもするので、『この写真を撮影した人はどういう人なのだろう』とか、『どういう場所にいて、どういう事情を持っているのだろう』ということを想像してもらえたら嬉しいなと思います。会うことは難しいかもしれないけど、作品を通してここにいない人を想像してほしいなと思います」
文=原田健
<プロフィール>
渡辺 篤:現代美術家。東京芸術大学大学院修了。
近年は、不可視の社会課題であり、また自身も元当事者でもある「ひきこもり」にまつわるテーマについて、心の傷を持った者たちと協働するプロジェクトを多数実施。そこでは、当事者性と他者性、共感の可能性と不可能性、社会包摂の在り方など、社会/文化/福祉/心理のテーマにも及ぶ取り組みを行う。社会問題に対してアートが物理的・精神的に介入し、解決に向けた直接的な作用を及ぼす可能性を追求している。主な個展及びプロジェクト展は、「私はフリーハグが嫌い」(国立新美術館、東京、2023年)、「同じ月を見た日」(R16studio、神奈川、2021年)、「修復のモニュメント」(BankART SILK、神奈川、2020年)、「ATSUSHI WATANABE」(大和日英基金、ロンドン、2019年)など。 主なグループ展は、「あ、共感とかじゃなくて。」(東京都現代美術館、2023年)、国際芸術祭「あいち2022」、「瀬戸内国際芸術祭2022」、「Looking for Another Family」(国立現代美術館、韓国、2020年)など。
渡辺 篤ウェブサイト:https://www.atsushi-watanabe.jp/
アイムヒア プロジェクトウェブサイト:https://www.iamhere-project.org/
Twitter:https://twitter.com/nabe_chan_
放送情報
ART & CULTURE ~ 今を生きる表現者たち 現代美術家:渡辺 篤
放送日時:2023年7月22日(土)11:30~ 他
チャンネル:スポーツライブ+ 他
※放送スケジュールは変更になる場合があります
【配信情報】
ART & CULTURE ~ 今を生きる表現者たち 現代美術家:渡辺 篤
放送日時:2023年7月14日(金)12:00〜12月31日(日)
https://spoox.skyperfectv.co.jp/static/sales/content/art-culture/
【展覧会情報】
「あ、共感とかじゃなくて。」
会 期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)
休館日:月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会 場:東京都現代美術館 企画展示室 B2F
詳細はウェブサイトをご確認ください
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
「NACT View 03 渡辺 篤(アイムヒア プロジェクト)私はフリーハグが嫌い」
会 期:2023年9月13日 (水)~12月25日(月)
開館時間:美術館の開館時間に準ずる
会 場:国立新美術館 1Fロビーほか[東京・六本木]
詳細はウェブサイトをご確認ください
https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/nactview-03/index.html
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