将棋ファンからタイトル獲得を熱望されている棋士の1人が木村一基九段だろう。解説名人として知られ、木村が解説を務める会ではファンの笑いが絶えない。解説者としては現在1、2位を争うであろう人気棋士だ。一方でタイトル戦にも何度も登場するトップ棋士であるが、タイトルホルダーの厚い壁に跳ね返され、悲願のタイトルまであと一歩。それでもタイトルを目指し戦い続ける姿には、ファンからの声援が寄せられている。
■23歳で四段昇段、白星を重ねる
木村は奨励会時代から苦労人だった。タイトル戦を戦うような棋士のほとんどが10代でデビューを果たしているが、木村は23歳での四段昇段となった。これはトップ棋士としては異例の遅さである。1997年4月のことであった。
居飛車党で、攻め将棋が全盛の中、珍しく受けを主体とする棋風。玉が薄くなったり、危険にさらすこともいとわない強気の棋風で、苦しくなっても最後まで勝負を諦めない精神力の強さも持つ。
プロ入り後は破竹の勢いで白星を重ねる。2001年度は61勝12敗で勝率、勝数、対局数の3部門で1位に輝く。藤井聡太七段のデビュー初年度と同じ成績と言えば、どれだけ勝ったかが分かることだろう。
■タイトル獲得に向け挑戦が続く
2005年、第18期竜王戦でタイトル初挑戦。以下は木村のタイトル戦の戦歴だ。
2005年 第18期竜王戦 0─4 渡辺明竜王
2008年 第58期王座戦 0─3 羽生善治王座
2009年 第79期棋聖戦 2─3 羽生善治棋聖
2009年 第50期王位戦 3─4 深浦康市王位
2014年 第55期王位戦 2─4(1持) 羽生善治王位
2016年 第57期王位戦 3─4 羽生善治王位
2005年の竜王戦は、前年に初タイトルを獲得したばかりの渡辺が相手。初挑戦対初防衛戦だったが、結果はストレート負け。渡辺はこのまま9連覇を達成することになる。続く2008年は王座戦で圧倒的な強さを見せていた羽生と。こちらもストレートで完敗し、タイトル戦での白星を得ることはできず。
翌2009年の棋聖戦で羽生に挑戦。第1局に敗れてタイトル戦の連敗が8に伸びるが、第2局で初勝利。続く第3局も勝って、タイトルへあと1勝とする。しかし、第4局で痛恨の逆転負けを喫し、第5局にも敗れてタイトル獲得はならず。だが、王位戦でも挑戦権を獲得しており、棋聖戦を戦う最中に開幕していた。こちらは深浦を相手に開幕から一気に3連勝。いよいよタイトル獲得かと思われたが、第4局からまさかの4連敗で、大逆転負けとなってしまう。
大逆転負け以降タイトル戦の舞台から離れてしまったが、2014年に再び王位戦に登場し、羽生と戦う。珍しい持将棋(相入玉による引き分け)になるなど、熱のこもったシリーズとなったが、2勝4敗1持将棋で敗退。さらに2年後の王位戦でも羽生に挑戦。第5局を終えて3勝2敗となり、初タイトルを懸けて第6局に臨んだが、大技を喫し敗れる。続く第7局にも敗れ、フルセットでの敗退。3度目のシリーズ逆転負けで、「勝てばタイトル獲得」の一局でこれまで8度敗れたことになる。
2016年の王位戦での敗退は堪えたそうで、さすがの木村も「もう上を目指すのは厳しいかもしれない」と思ったそうだ。しかし2019年に入って復活。第77期順位戦B級1組最終戦に勝って9期ぶりのA級昇級を決めると、第60期王位戦挑戦者決定戦で羽生を破り3年ぶりのタイトル挑戦。7度目の挑戦はタイトル獲得のない棋士の中では最多となる。
現在木村は46歳。これまでタイトル初獲得の年長記録は1973年に有吉道夫九段が記録した37歳であり、獲得すれば大幅に記録を更新することになる。
相手の豊島将之王位は先の棋聖戦で敗れたため、こちらも初防衛を目指す戦いとなる。木村が悲願のタイトルを獲得できるか、夏を象徴するような熱いシリーズになりそうだ。
文=渡部壮大
放送情報
第27期 銀河戦 本戦Aブロック 10回戦 稲葉陽八段 vs木村一基九段
放送日時:2019年7月29日(月)23:00~
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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