岩井勇気の推しアニメ>細田守監督が新たに描くインターネット上の仮想空間「竜とそばかすの姫」に感じる「リアル」に迫る

仮想世界<U>を舞台に、歌うことが大好きな少女と謎の存在「竜」との交流を描く『竜とそばかすの姫』
仮想世界<U>を舞台に、歌うことが大好きな少女と謎の存在「竜」との交流を描く『竜とそばかすの姫』

様々なアニメ作品に精通しているハライチの岩井勇気さんが「大人にこそ観てほしいアニメ作品」を紹介するこの企画。第5回は2021年に劇場公開された「竜とそばかすの姫」。細田守監督による長編オリジナルアニメーション6作品目にあたる今作は、インターネット仮想世界<U>と出会った田舎町に住む女子高校生・すず(声:中村佳穂)の成長物語だ。仮想世界の表現、特に印象に残っているキャラクターなど岩井さんならではの視点で本作の魅力を語ってもらう。

(C)2021 スタジオ地図
(C)2021 スタジオ地図

17歳の女子高校生・すずのAsで、歌姫として世界中で人気者になるベル

■奥行きがあり、より身近に感じられる仮想空間の表現

「竜とそばかすの姫」は、細田守監督の得意なことをふんだんに使っていると感じます。なかでも仮想世界の表現は相変わらず素晴らしい。「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」(2000年)や「サマーウォーズ」(2009年)でも仮想世界を描いていますが、どんどん奥行きが進化していて。今回はこれまで以上にネット世界の広さを感じました。

例えば、<U>の世界の象徴である「クジラ」の存在が奥行きを感じる要素の一つになっていると思います。大きなイメージで描かれているクジラが、画面の手前に来たり奥に行ったりすることにより、どれほど大きな規模の空間なのかがすごくイメージしやすかったです。

そういった迫力ある仮想世界に憧れを抱く一方で、「ネット世界と地続きに自分たちの生きている世界がある」という細田監督のメッセージを感じました。今のネット社会や世の中に思うことがあるのではないかと。「デジモン」や「サマーウォーズ」の時のネットは、特定の人たちがその世界でしか得られないノリを楽しむような使い方をしていたと思います。そのイメージがあったから、「サマーウォーズ」は仮想世界と現実世界が平行だったと感じていて。結果的に世界を救ったのは陣内家だったけど、陣内家の出来事が仮想世界に反映されていなかった。

(C)2021 スタジオ地図
(C)2021 スタジオ地図

ベルになったすずは、圧倒的な歌唱力とパフォーマンスで人々を魅了していく

ところが、「竜とそばかすの姫」は現実世界で起こったことが仮想世界にも反映されているんですよ。「竜」探しのシーンは現実世界と仮想世界がごちゃ混ぜになっています。そうやってネットに対する表現が変化したのには、誰もが当たり前のようにネットを利用し、誰もが自分の意見を世界に発信できてしまう時代になり、その中でリテラシーが試されるようになったからではないかと。本当に大事なものが現実世界と仮想世界、どちらにあるのかを問われているようでした。

そして、ネットと現実が地続きに描かれているからこそ、とても没入できる感覚にもなります。すずを見守る「合唱隊」のお母さんたちが、ベルの正体をすずだと知りつつ仮想世界のAs(アズ)と呼ばれるアバターで見守っていたり、仮想世界ですずとして歌う時に、吹奏楽部でアルトサックスを吹く同級生のルカちゃん(声:玉城ティナ)が、Asとしてもアルトサックスを吹いて応援していたり。近未来の世界観にアナログな要素を入れ込むのが細田監督の十八番であると感じるとともに、僕はグッと来てしまいます。

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放送情報【スカパー!】

竜とそばかすの姫
放送日時:2022年6月5日(日)18:45~
チャンネル:WOWOWシネマ

放送日時:2022年6月23日(木)14:45~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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