■物語を通じて成長する登場人物たちの心の機微
細田監督の作品は世界観の作り込みはもちろん好きですが、それ以上にキャラクターの感情の機微の描き方が好きなんです。「竜とそばかすの姫」は映画館で2回、配信されて2回観ていて。そのたびにすずの幼なじみであるしのぶくん(声:成田凌)への理解を深めています。
最初は「しのぶくんってどんなキャラクターなのだろう?」と気になって見るようになったのですが、徐々に見る目が変わっていきました。幼なじみに対して「見守らないといけない」とそこまで責任を感じる必要はないはずなのに、ずっとすずを見守っていた。すごく正義感が強くて好印象のキャラクターです。
無口で無愛想だからあまり感情がないように見えるけど、発言の一つ一つに母親みたいな包容力があります。すずが迷った時には道を示すような一言を言ったり、すずが<U>で顔を晒した時には背中を押すような一言を言ったり。最後にすずの成長が見えた時は、肩の荷が下りていたようにも思えて。子どもが成人した、一人暮らしを始めたかのようなリアクションだったなと。僕はマザコンなので、しのぶくんの包容力はすごく温かく感じました(笑)。たぶんここまでしのぶくんに興味を持ったのは、母の存在を思い浮かべやすかったからかもしれません。
逆にすずのようなキャラクターは僕の近くにいない存在。現実世界では歌えないけど、正体を隠した仮想世界でだけは歌うことができるというキャラクター性は、顔出ししないネット発のアーティストと同じような存在だと思います。でも僕は、顔も素性も晒してステージの上に立つという真逆のことをしているわけです。職業柄、自分の素性を晒すことで説得力が生まれると思っているから、素性を隠す=説得力がない、責任を負っていないと感じてしまう。だから、最初はすずに対してもどこかでそんなイメージを持っていました。
もともとすずは、ネットの世界に飛び込んで発言したり行動したりするメンタルを持ち合わせていなかった。それは今ネットを使っている多くの人が同じだと思います。だからこそ、素性を晒すというのはそれだけ勇気が必要な行為なわけです。けれども、すずは顔や素性を晒して、竜の心を開くわけです。自分のネット上の行動や発言が様々な責任を伴うと理解した上で覚悟したすずに対して、「根性があるな」と思いました。
結局、人と人との繋がりってアナログでしか得られないところに大事なものがある。「竜とそばかすの姫」だけではなく、細田監督が一貫して描き続けているテーマだと感じています。
取材・文=阿部裕華
岩井勇気●1986年生まれ。幼稚園からの幼なじみである澤部佑とのお笑いコンビ「ハライチ」として活躍。初のエッセイ集「僕の人生には事件が起きない」が17刷り重版中。放送されるアニメ作品はすべてチェックし、テレビ朝日で放送中の「まんが未知」など、漫画やアニメに関する番組でもMCを務める。
放送情報【スカパー!】
竜とそばかすの姫
放送日時:2022年6月5日(日)18:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
放送日時:2022年6月23日(木)14:45~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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