様々なアニメ作品に精通しているハライチの岩井勇気さんが、「大人にこそ観てほしいアニメ作品」を紹介するこの企画。今回の「かがみの孤城」(2022年)は、小説家・辻村深月の最高傑作とも評され、2018年の本屋大賞など9冠に輝いたベストセラー小説の劇場アニメ化作品。主人公のこころの声を1000人から選ばれた當真あみが担当したほか、北村匠海、宮﨑あおい、声優の梶裕貴や高山みなみら実力派が声を担当。監督は「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(2001年)、「河童のクゥと夏休み」(2007年)などを手掛ける原恵一、アニメーション制作は「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2013年)、「心が叫びたがってるんだ。」(2015年)などのA-1 Pictures。「上べではない向き合い方に惹かれた」と振り返る岩井さんが、等身大の中学生であるキャラクターたちの心情にスポットを当て、本作の魅力について語る。
■形だけの解決策を提示するのではなく、逃げ場や選択肢を設ける大切さを伝える
主人公・こころをはじめとした7人の子どもたちは、それぞれイジメや家庭内暴力など大変な状況に置かれていて、孤城に隠されたどんな願いも叶えてくれる鍵を探すミステリーと並行しながら、こころの周辺がイジメにどう対処していくかも描かれます。でも結局、イジメ問題は解決されないまま終わるんです。そこが逆に良くて、より現実味を感じました。イジメっていじめた側が謝ったらそれでおしまいじゃないし、映画ではこころをいじめた子が先生の手前謝ったフリをした手紙を送って、余計にこころを傷つけるシーンもあって。そういうことって実際に結構ありますよね。
解決するでも立ち向かうわけでもなく、逃げ道とか選択肢を提示して、学校生活だけが人生の大事なところではないと思わせてあげる。イジメの解決よりも周りの対応に重きを置いたところは、様々なイジメを題材にした作品があるなかで、とても現実的な解決方法の描き方だった気がします。
そんなこころを取り巻く大人たちのシーンで印象に残っているのが、こころと彼女の母親(声:麻生久美子)が、フリースクールの喜多嶋先生(声:宮﨑)と3人で、フードコートみたいなところで食事をしながらしゃべるシーンです。ああいう場が、きっと大事なんだろうと思いました。映画の冒頭で、母親がこころの不登校にうんざりしている様子もありましたけど、イジメの事実を知ってからはすごくこころと向き合っていて、喜多嶋先生と一緒に、こころにストレスがかからないような状況を作ってあげていた。こころを一人の人間として尊重し、寄り添ってあげている感じがして、好きなシーンです。子どもと言えど、中学生は意外と大人ですから。この作品を観ても、それがわかります。
「なるほどな」と思ったのは、イジメなどによって実生活が上手くいっていない子たちが集められたのに、働きアリの中でサボる奴を排除してもまたサボる奴が生まれてしまう理論と同じで、孤城の7人の中でもある種の力関係ができてしまうところです。ウレシノ(声:梶)はマイペースで、人の気持ちを本当に考えているのかわからなくて。彼が学校でハブられていたのはそういうところもあるんだろうなと思うのですが、そのような自分の嫌な部分に気づくことで、初めて他者のことも受け止めてあげられるようになる。7人が孤城での一年を通して、相手の気持ちを考えられるようになったのは、すごく良かったところです。
放送情報【スカパー!】
かがみの孤城
放送日時:2023年8月5日(土)20:00~、13日(日)12:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
かがみの孤城
放送日時:2023年8月6日(日)11:30~、8日(火)20:00~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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