【菅井友香】"馬との絆" 乗馬、怪我、そして競馬番組MCとしての今
タレント・芸人

――これまで出会った中で、特に印象に残っている馬はいますか?
「たくさんいますが、やっぱりバッカスという馬との思い出は特別です。初めて自分に割り当てられたパートナーで、個人の競技にも一緒に出場しました。バッカスはとにかく力が強くて、最初は振り回されるような感覚がありました。でも、彼にはすごく可愛らしい一面もあって。出っ歯で、ちょっと間抜けに見えるんですけど、それがまたたまらなく愛おしくて(笑)。初めて無口(馬を誘導するための道具)を自分専用に買ってもらって、それをバッカスにつけてクラブ内を移動したときは特別な感覚がありましたね。彼の馬房の前に立つだけで、気配を感じてくれるようになって。お互いの呼吸が合っていく感じが、嬉しくてたまらなかったです」
――信頼関係というのは具体的にどういう瞬間に感じるものなんでしょうか?
「たとえば、バッカスが少し不機嫌な日でも、私が近づくと表情が和らいだり、指示に対してすぐに反応してくれたり。『今日はちゃんと伝わってるな』と感じる瞬間があって、そういうときってすごく感動するんですよね。逆に、私の気持ちがフワッとしているときは、明らかに言うことを聞いてくれなかったりして(笑)。馬って、人の内面をすごく敏感に感じ取っているんだと思います。だからこそ、毎回真剣に向き合わなきゃいけない。そこが奥深いし、魅力でもあります」
――競技生活で得たものは、今のご自身にも生きていますか?
「はい、間違いなくあると思います。集中力や瞬時の判断力はもちろんですが、相手の立場になって考える力は、馬と向き合う中で自然と養われていったと思います。あと、バッカス以外にも、馬ごとに性格が全然違っていて。いたずら好きな子、繊細な子、すごく頑固な子がいて、その一人ひとりに合わせた接し方を学ぶことは、人との関係にも通じる部分がすごくあると思います」

――他にも忘れられない馬とのエピソードがあれば教えてください
「ヴォルフラムという馬との出会いも、とても印象深いです。彼は外国産の大きな馬で、最初は『こんなパワーのある馬、女の子が乗れるの?』って言われたくらいでした。でも、何度も挑戦して、少しずつ彼のリズムを理解して、心を通わせていけるようになって。その馬と一緒に出場した全国大会で、準優勝することができたんです。あの瞬間は、乗馬を続けてきて本当によかったと思いましたし、バッカスから始まった馬との信頼が、確かに形になったような気がしました」
――そこから、競馬番組への出演という形で、新しい"馬との関わり方"が始まったんですね
「グループを卒業したあとに、『競馬BEAT』にMCとして出演させていただくことになって。最初は正直、プレッシャーも大きかったです。競馬は、ファンの方々の知識が本当に深くて、情報量もすごいんです。そんな中で、自分がどれだけ役割を果たせるんだろうって。でも、やっぱり馬が好きという気持ちは本物だったから、そこに自信を持って、まずは自分なりにできることから一歩ずつ積み重ねようと思いました。分からないことは正直に教えてくださいと聞くようにして、専門家の方々やファンの皆さんから学びながら、毎週の放送に臨みました」
――初めてレースを見たときのことは覚えていますか?
「覚えています。桜花賞のときで、櫻坂46の"櫻"と重なって、なんだかご縁を感じて注目していたレースでした。中央競馬をリアルタイムで観たのがそのときが初めてで、パドックの馬を見たとき、その迫力や気配に圧倒されたんです。『この子たちが今からあの広いコースを走るんだ』と思ったら、自然と胸が高鳴っていました」
――レース観戦を通して、馬への想いに変化はありましたか?
「競馬の世界に入って、乗馬とはまた違う形で馬と人間の関係性を見るようになりました。ジョッキーの方々、調教師の方々、厩務員さんたち。それぞれがすごく強い情熱と責任感を持って馬と向き合っていて。最初は『どうしてこの馬が人気なんだろう?』『調教って何を見ればいいの?』と分からないことだらけでしたけど、実際にトレセンや厩舎に取材に行かせてもらったときに、皆さんの馬への愛情がすごく伝わってきて、この仕事に携わらせてもらってよかったと心から思いました。そして、自分がやってきた乗馬や馬術と根本にある"馬へのリスペクト"は共通しているなと感じて。だからこそ、乗馬で培ってきた経験を、少しでも競馬番組の中で活かしていきたいと思っています」

――印象に残っているレースや馬はいますか?
「やっぱりリバティアイランドとイクイノックスですね。リバティアイランドが牝馬三冠を達成した姿には、鳥肌が立ちましたし、女性としてもすごく励まされました。イクイノックスは、もう本当に次元が違うという印象で、まるで神話の中の存在みたいでした。引退後、実際にイクイノックスに会いに行く機会があったのですが、馬体の美しさ、毛並みの艶、そして目の奥の深さ...どれをとっても、言葉にできないくらい感動しました。左右で表情の違う目も印象的で、特に片方は三白眼ぎみで、その眼差しが本当に力強くて。今でも彼のマスコットをリュックにぶら下げて、競馬場に持って行っています(笑)」
――いつも一緒にいるんですね(笑)。馬のどんな仕草やパーツが好きですか?
「たくさんあるんですけど、やっぱり一番は"顎のぷにぷに"ですね(笑)。あそこって馬によって触り心地が違っていて、筋肉質でしっかりしている子もいれば、ふにゃっと柔らかい子もいたりして。触れるたびに『この子はどんな性格かな?』って観察するのが楽しいんです。あと、香りも好きです。馬って人間より体温が高いので、ブラッシングしているときに背中やお腹にそっと顔を寄せると、ぽかぽかしていて、独特の香りがふわっとして。それがとても安心できるんです。忙しい日々の中で、そういうほっとする時間があることに、すごく救われていました」
――最後に、これからの馬との関わり方や夢を聞かせてください
「これからも、ずっと馬と関わっていきたいです。競技者としての形ではなくなったけれど、メディアを通してでも、馬の魅力や、馬と生きる人たちの努力や思いを伝えていける存在でありたいと思っています。最近では、ホースセラピーの分野にも興味があって。心や身体に不調を抱えた方が馬とのふれあいで癒されるという取り組みを、もっと広めていけたらいいなと。自分の経験が、少しでもそういう活動の役に立てたら嬉しいです。そして何より、今この瞬間も人間のために走ってくれている馬たちが、みんな幸せに過ごせますように。そのために、自分にできることを探しながら、これからも馬と共に歩んでいきたいと思います」

取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
ヘアメイク=カワムラ ノゾミ
スタイリスト=福田亜由美
衣装
カーディガン ¥8,690 (リリアンカラット / 03-4578-3338)
スカート ¥12,100 (ココ ディール / 03-4578-3421)
その他、スタイリスト私物
放送情報
「競馬BEAT」
関西テレビほかにて毎週日曜午後3:00放送
詳しくは
こちら