尾崎裕哉 30年後の「僕が僕であるために」

2017年3月に4曲入りの1stEP『LET FREEDOM RING』でメジャーデビューを果たした、シンガーソングライターの尾崎裕哉が、初のホールツアー『SEIZE THE DAY TOUR 2017』を開催した。ライブハウスツアーに続くホールツアーで、12月には弾き語りのツアーも開催。アルバムを待たずに精力的なツアー活動を行う彼のライブとはどんなものだろうか。

カリスマの2世として生まれて

ライブは生まれてきた意味を探して逡巡するロックナンバー『27』でスタートした。父である故・尾崎豊（享年26歳）の名曲のフレーズ"僕が僕であるために"を引用しながら、父の年齢を追い越したことを実感し、父が見れなかった景色を見ていきたいという意志が込められた楽曲だ。続く、『Road』では、自信を持てない自分自身を鼓舞しながら、自分らしく生きるしかないんだと力強く歌い上げていた。

冒頭の2曲はいわゆるJ-ROCKで、歌声は父親譲りの部分があるのは確か。特に張り上げた時の歌唱は似てはいるが、彼自身は生まれた時からヒップホップやネットが当たり前にあった世代であり、サウンドのバックグラウンドにはブラックミュージックの影響も色濃く反映されている。歌の言葉に関しても、2017年10月4日に発売されたばかりの2nd EP『SEIZE THE DAY』に収録された『シアワセカイ』は"幸せかい？"と読むと尾崎豊的だが、"幸せ世界"と読むと、歌詞の根本に常に幸せを希求している姿勢を感じる尾崎裕哉らしく、ビートの取り方もフォークソングのようで、ヒップホップ的である。さらに"いつまで経っても"と繰り返す『つかめるまで』はアーバンソウルとなっており、バンドによるシンプルなループのトラックの上で、ローのウィスパーボイスからファルセットまで、様々な声質を使い分け、心の中にいる何人もの自分を表現。父親のカバー『僕が僕であるために』をアーバンR&Bにリアレンジして歌い、温かいソウルバラード『Smile』で見せた官能的なギターソロからは、ボーカリストと同等なくらい、ギタリストとしての高い資質も感じた。

「明日をつかもう！」という願い

ツアータイトル『SEIZE THE DAY』について、裕哉は「栄光の明日をつかもうっていう願いを込めたツアーです。常に今を生きて、それを重ねていくことで、より良い明日を、より良い未来を生きてる自分を想像するっていうことを中心的なメッセージにしていて」と解説していた。

また、ステージ上には、巨大な額縁があり、ドラクロワの名画『民衆を導く自由の女神』が飾られていた。さらに、1stEP『LET FREEDOM RING』はキング牧師による"自由の鐘を鳴らせ"というスピーチのオマージュだった。尾崎豊も"自由"を歌っていたが、彼にとっての自由とは簡単に言えば、大人が作った"社会"という枠組みに対するものであり、尾崎裕哉にとっての"自由"とは、自分自身の"解放"のことであると感じた。その最適な手段として、言葉やメロディ、歌やギターがあるということなのではないかと思う。と、同時に、聴き手にとっては彼の歌が自分自身の心を解放してくれるきっかけにもなっていることも願ってるだろう。

尾崎裕哉が人生に求めるものとは？

尾崎裕哉の曲には、必ず大人を含めた他者が存在している。『27』や『Road』を始め、自己と社会の間で自分探しをしながらも、愛や幸せも決して一人では感じられないことに気づいているし、自分を支えてくれる他者への感謝で溢れている。どうしようもない孤独を感じる時でも、『The Anthem』のように孤独を分け合うことで、自分が一人じゃないと感じることができる。

アンコールでは父のカバー『街の風景』と自身のオリジナル曲『始まりの街』を続けて歌った。人生を喜劇と捉えた『街の風景』に対し、『始まりの街』は、母親への感謝が詰まった曲になっている。彼が二十歳の頃に母に向けて作った楽曲で、彼にとっては、アーティストとして世に放たれた、記念すべき配信デビュー曲でもある。「幼い頃に父親を亡くして。でも、（母親と）二人きりじゃなかったって思える思い出がたくさんあります。その中でも、見守ってくれた感謝を僕の大切な人たちに送ります」と語り、"あなたは幸せを求めてよ　これからも　信じるものを愛することを　あなたは知ってるから"とアカペラで高々と歌い上げた。尾崎裕哉の音楽の根底に共通して流れているのは、この"誰もが幸せを求めて生きるべきだ"という幸せに対する希求である。

※この記事はライブレポートのため、実際の放送内容とは異なります。

Writer：永堀アツオ

※この記事はヨムミル！ONLINEの転載になります。

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