何度観てもおもしろい! ケヴィン・スぺイシーが助演男優賞を受賞した「ユージュアル・サスペクツ」の作品構造と演出法

「偽りの回想」といえば、かつてサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックが自作「舞台恐怖症」(1950年)に用いたことで知られており、回想シーンにおいて被害者的な立場にあったキャラクターが、実際は主犯者だったというサプライズを同作にて講じている。だが空想にすぎない展開で観る者の感情を操作するやり方は、物語の信憑性を根本から損ね、アンフェアだという批判がヒッチコックに集中。以後、「偽りの回想」はサスペンス映画において悪手とみなされてきた。

しかし同時期、黒澤明の監督した「羅生門」(1950年)が、この「偽りの回想」を巧みに用い、正当性をもって極上のミステリーを成立させている。本作は同じシチェーションを登場人物それぞれの視点から回想させ、偽証の可能性を事前に示唆することで、観客に出来事の決定的な見解を与えない「舞台恐怖症」とは一線を画するものとなっている。それが延いては謎解きのフックとなり、近年ではリドリー・スコット監督の歴史劇「最後の決闘裁判」(2021年)で同様の手法が見られ、影響力の強さは計り知れない。

「ユージュアル・サスペクツ」は、この「舞台恐怖症」とも「羅生門」とも異なる「偽りの回想」で、観客を疑念の渦中へと巻き込み、果てに衝撃の結末へと辿り着かせていく。そして、「偽りの回想」が単に構成上の仕掛けではなく、カイザー・ソゼの常人離れした悪魔性も顕在化させていくのだ。ソゼの犯罪キャラクターとしての存在感を痛烈に覚えるクライマックスは、製作から四半世紀を超えた今でも、誰もが身の毛のよだつような興奮を得るに違いないだろう。加えてシンガーの演出は、常に変化する視点を明確かつスタイリッシュに表現し、凝ったミステリー作品が陥る混乱に観る者を巻き込んだりはしない。

伝説のギャング、カイザー・ソゼの正体とは?
伝説のギャング、カイザー・ソゼの正体とは?

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一度目は衝撃の結末に驚き、二度目は周到に敷き詰められた布石やアウトラインに舌を巻く。これらを誘導するトリックスターとして、スペイシーが見せるパフォーマンスも優れている(スペイシーは本作で第68回米アカデミー賞の助演男優賞を受賞)。シンガー監督もスペイシーも、近年キャリアに汚点を残すような行為が取り沙汰されたが、本作で披露した彼らの才能を思うと口惜しさが残る。現実の犯罪を擁護する気はないが、この映画が見せてくれた、創意あふれる犯罪は肯定したい。

文=尾崎一男

尾崎一男●1967年生まれ。映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

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放送情報【スカパー!】

ユージュアル・サスペクツ
放送日時:2022年9月26日(月)1:15~
チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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