ブロマンス時代劇「陳情令」(2019年)の配信開始から5年以上が経ち、今では中国の実力派スターの一翼を担うワン・イーボー(王一博)。2025年1月には警察部隊"FPU"の狙撃手を演じた映画「FPU 若き勇者たち」、2月にはCHANEL(シャネル)が特別協力として名を連ねた短編映画「銀幕の友」と、相次いで主演映画が公開された。

そんな彼の好調なキャリアを振り返る上で外せないのが2024年。この年、ジャンルが全く異なる3本の主演映画「無名」「ボーン・トゥ・フライ」「熱烈」が立て続けに日本公開され、爆発的な人気と実力を広く知らしめるきっかけになった。中でも初主演作「無名」では香港トップスター、トニー・レオンと初タッグ。2人が肩を並べた時の、張り詰めた緊張感と比類なき美しさは多くの映画ファンを魅了した。

■1940年代・上海。名優トニー・レオンとワン・イーボーが体現する"名もなきスパイ"の戦い

3月14日(金)にWOWOWシネマにて放送される「無名」は、第2次世界大戦中の上海を舞台に、諜報活動に明け暮れるベテラン諜報員と若き部下たちによる一進一退の攻防を描くハードボイルドなノワール作品。

1940年の中華民国。汪兆銘政権の政治保衛部で働く諜報員フー(トニー・レオン)と部下のイエ(ワン・イーボー)は、日中戦争に向け、日々の活動に追われていた。かつて中国共産党の秘密工作員をしていたジャン(ホアン・レイ)の身辺調査を行ったフーは、中国国民党に転向するというジャンから共産党幹部の情報を聞き出す。
翌年、上海。処刑されるはずだった国民党の女スパイ(ジャン・シューイン)を密かに助け、代わりに上海に住む日本人要人リストを入手する。一方、イエは友人ワン(エリック・ワン)と活動していたが、実はイエは日本軍のスパイのトップ、渡部(森博之)と繋がる二重スパイだった。

時系列を前後しながらパッチワークのようにシーンをつなぎ、"名もなきスパイ"の戦いをスリリングに描いていく。お互いに命を懸けて腹の内を探り合うスパイたち――フィルム・ノワールの世界観で繰り広げられる彼らの心理戦の応酬が、最大の見どころだ。

■やはり別格！トニー・レオンの憂いを滲ませる美しい立ち姿と、ワン・イーボーの気迫に満ちた壮絶な肉体表現

その中で、香港のトップスター、トニー・レオンの放つ輝きはやはり別格だ。仕立ての良い上質なスーツをまとい、微笑みを湛えた柔和な表情の奥に、冷酷さと憂いを滲ませるフーの立ち姿には、スクリーンスターならではの色気と風格が漂う。

さらに、フーと並び立つイエ役、ワン・イーボーの横顔の何と美しいこと...。柔和なフーとは対照的に、笑顔はなく口数も少ないイエ。イーボーの持ち味である相手を射抜くような強い眼差しが、そのままイエというキャラクターの強度にも反映。日本軍スパイ・渡部と会話を交わすシーンでは、イーボーが見事な日本語も披露している。

そんな本作のハイライトが、終盤で訪れるイエのアクションシーンだ。緊迫の銃撃戦に始まり、容赦なく打ちこまれる拳、酒瓶で頭を殴打され飛び散るガラス片、そして体が地面に叩きつけられる激しい階段落ちのシーン――イーボーがノースタントで挑んだ壮絶すぎるアクションの数々が、それまでの緊迫と静寂を一気に打ち破る。相手が気を失った刹那、ふっと床に倒れ込んだイーボーの横顔がまた、美しくも孤独で、もの哀しい...。