映画評論家・尾崎一男が語る、映画『L.A.コンフィデンシャル』の時が経っても色褪せない魅力

3人の刑事が底なしの陰謀に巻き込まれていく『L.A.コンフィデンシャル』
3人の刑事が底なしの陰謀に巻き込まれていく『L.A.コンフィデンシャル』

1953年、ロサンゼルスの街はバイオレンスの重い響きが唸りを上げていた。街を牛耳る大ボスのミッキー・コーエン(ポール・ギルフォイル)が逮捕され、彼の後釜を狙う者たちの抗争が勃発。重音の波動が不穏な空気を醸し出していた。

そんな渦中、「ナイトアウルの虐殺」と呼ばれる大量殺人事件が起こる。元警官を含む6人の男女が、深夜のカフェで惨殺されたのだ。ダドリー・スミス警部(ジェームズ・クロムウェル)指揮の下、ロス市警は捜査を開始し、犯人は黒人ギャングによるものと断定。だが、それは抗争に見せかけた冤罪で、真実は3人の刑事たちによって明らかになっていく。

■クセのある3人の刑事が難事件の解決に向けて一致団結する

1997年に製作されたアメリカ映画『L.A.コンフィデンシャル』は、50年代のハリウッドを舞台に、色と欲、裏切りと死、そして警察の腐敗や背後でうごめく権力者の暗躍など、数多くのプロットが機能的にドラマに作用し、細部にまでひねりの利いた興奮を行き渡らせるサスペンスだ。

なにより事件の核心に迫る3人の刑事たちが、観る者を惹きつけて離さない。ラッセル・クロウ演じるバド・ホワイトは、成果を得るためならばスタンドプレーも辞さない直情型の正義漢。そしてガイ・ピアース扮するエド・エクスリーは、出世のためなら仲間を犠牲にすることもいとわぬ狡猾なエリート。3人目のジャック・ヴィンセンス(ケヴィン・スペイシー)は、連続警察ドラマのアドバイザーを務めたり、タブロイド誌の編集者(ダニー・デヴィート)と手を組んで手柄を得るなど、注目を浴びることを好む人物だ。

そんな生き様や性格を異にする彼らが、「警官として正義を全うする」という一致のもとに協力関係を結んだ時、既に解決したはずのナイトアウルの虐殺は、思いもよらぬ真犯人を浮かび上がらせる。

名優たちの競演にも注目!

© 1997 Regency Entertainment (USA), Inc. in the U.S. only.

■フィルムノワールのおもしろさを再認識させた『L.A.コンフィデンシャル』

暗黒犯罪小説の担い手ジェイムズ・エルロイの同名長編を、『暗殺者』(1995年)の脚本家ブライアン・ヘルゲランドが忠実にアダプトし、『ゆりかごを揺らす手』(1991年)や『激流』(1994年)などを手がけたカーティス・ハンソン監督が演出したこの作品は、長大なエルロイの原作にある良質でスリリングな展開が凝縮され、全編においてムダがない。配役、撮影(ダンテ・スピノッティ)、美術、音楽(ジェリー・ゴールドスミス)といった要素がそれらを巧みにコントロールし、映画は終始一貫した緊張感と魅力を放っている。

なにより製作時、本作のようなノワールものは弱体化したジャンルとして見なされ、興行的な価値に乏しいと企画をたらいまわしにされていた。そのため、映画化が決定した時にはわずか1500万ドルの低予算で成立を余儀なくされ、キャスティングは吟味に吟味を重ね、ガイ・ピアースやラッセル・クロウといった、確実に実力のある役者を必然的に選び出したのだ。

本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞したキム・ベイシンガー

© 1997 Regency Entertainment (USA), Inc. in the U.S. only.

ゆえに『L.A.コンフィデンシャル』は、ハリウッド映画がVFX大作に隷属的である必要などないことを示す形となった。その証拠に同年に製作された『タイタニック』(1997年)と賞レースを競い合い、後者が第70回米アカデミー賞最優秀作品賞を獲った時、「前者こそアカデミーによって最優秀作品賞を与えられるべきだったのでは?」と異議を唱えるジャーナリストも少なくなかったのだ。後年、米国の放送映画批評家協会(Broadcast Film Critics Association)が1990年代の最優秀映画を選出する投票をおこなった際、『L.A.コンフィデンシャル』は第3位に選ばれている(『タイタニック』は選外)。

 1位 『シンドラーのリスト』(1993年)
 2位 『プライベート・ライアン』(1998年)
 3位 『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)
 4位 『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)
 5位 『グッドフェローズ』(1990年)
 6位 『ファーゴ』(1996年)
 7位 『羊たちの沈黙』(1991年)
 8位 『ショーシャンクの空に』(1994年)
 9位 『パルプ・フィクション』(1994年)
10位 『許されざる者』(1992年)

最後に、50年代ハリウッドを描いた郷愁感も本作の魅力の一つだが、決して懐古趣味ではない。同時代の写真家ロバート・フランクのようにリアルな空気を生々しく写し撮ることで、クラシカルなフィルムノワールとは一線を画すものとなっている。一発の銃弾で全てがひっくり返る、中盤にみせる衝撃の展開は、製作から四半世紀が経つ今もなお観る者を驚かせるだろう。

文=尾崎一男

尾崎一男●1967年生まれ。映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

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放送情報

L.A.コンフィデンシャル [PG12相当]
放送日時:2021年6月26日(土)21:00~、29日(火)21:00~
チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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