ロバート・デ・ニーロアル・パチーノが対決!2大演技派俳優の夢の共演をてらさわホークが語る

ロバート・デ・ニーロ演じる強盗団のリーダー、ニール・マッコーリー
ロバート・デ・ニーロ演じる強盗団のリーダー、ニール・マッコーリー

言わずと知れた二大モンスターが殴り合う『ゴジラVSコング』がそろそろ公開されようというタイミングだが、しかしお客さん!いずれ劣らぬ両雄が一対一の最終決戦に打って出る映画といえば!そう、1995年の『ヒート』ですよねえ。ということで古今東西のアクション・ヒーローにスポットライトを当てる当連載、今回は一粒で二度おいしい、そんな名作中の名作についてお話ししたい。

■ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが犯罪者と刑事に扮して正面衝突!

ニール・マッコーリー(ロバート・デ・ニーロ)は強盗のプロフェッショナルだ。犯罪社会で長年生きてきたなかで得た仕事仲間たちと綿密な計画を練り、間違いなくそれを実行してきた。一方、その計画が蠢いているらしいとの情報を得た男がいた。彼はロサンゼルス市警のヴィンセント・ハナ刑事(アル・パチーノ)。大強盗を働こうとする者、それを止めようとする者。互いの職業人としてのプライドを懸けて、いま2人の男が激突する...。

デ・ニーロとパチーノ、どちらも演技派の鬼として、数々の作品で全身全霊の芝居を見せてきた。年齢も近い2人はアメリカ映画界の最前線で鎬を削ってきたが、『ゴッドファーザーPART II』(1974年)でニアミスしたことを除けば、ついぞ共演することはなかった。

しかし、そんな2人がついに顔を揃えるという報せを聞いた。しかも仲良しこよしの二枚看板ではない、筋金入りの犯罪者と鬼刑事の敵同士に扮して正面衝突するという。最近のゴジラとキングコングがとうとう大画面で相まみえると知った時はずいぶん高揚したものだが、デ・ニーロとパチーノの対戦が大決定した当時は、それ以上に興奮したものだった。しかも監督は、マイケル・マンというじゃないか。

プロデューサーを務めたテレビシリーズ「特捜刑事マイアミ・バイス」(1984~89年)では、スタイリッシュながら実は泥臭い犯罪捜査のドラマを見せ、あるいは『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』(1981年)、『ラスト・オブ・モヒカン』(1992年)といった映画では男の意地を濃密に描いてきた。というマンである。役者は揃ったし監督も揃った。これは勝った!と思ったものだ。

ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノ、名優同士の鬼気迫る演技バトルに痺れる!

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冴えないオッサンから何かしらのプロフェッショナル、または常識のタガが外れた狂人まで、デ・ニーロもパチーノも何でも演じられる口だ。エキセントリックな役柄ほどモチベーションが上がるのかもしれない。『ケープ・フィアー』(1991年)のデ・ニーロも『ディック・トレイシー』(1990年)のパチーノも完全に気が狂っていて最高だった。

しかし、彼らが理性の向こう側に行ってしまった怪人たちを嬉々として演じれば演じるほど、もうちょっとこう、何の心配もなく痺れることのできるような格好いい男の役をやってはもらえないものだろうか。1990年代も半ばを迎えようという頃、そんなことを考えて悶々としていたのである。

■その後の映画に大きな影響を与えた12分間の銃撃戦の壮絶さ

そこへ満を持してやってきたのが『ヒート』だった。ここでの両雄はそれぞれまったく立場の違う2人の主人公を演じるけれども、とにかくこれが悶絶するほどに格好よろしい。言ってもそこはデ・ニーロとパチーノではあるから、いずれも完全に常軌を逸した役柄ではある。

強盗犯ニールは犯行計画に少しでも綻びが生じたら即座に逃げられるよう、不要な繋がりはあらかじめ全て捨てている。その異常なストイックさをもってすればどんな仕事でも大成したのではないかと思ってしまう。対する刑事ヴィンセントにしても当然ただの男ではない。昼も夜もなく刑事の仕事に没頭し、家庭は崩壊寸前。だがそんなことは意に介せず、今日もLAの街を闊歩して、そこら中で誰彼構わず目を剥いて怒鳴り上げる。銀行強盗を職業と呼べるかは別としても、仕事に対して異常な入れ込みようを見せる点においては、強盗と刑事の2人は同類だ。

アル・パチーノ演じるヴィンセント刑事がニールを執拗に追い続ける

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いずれの男も常にスーツに身を包み(全編を通してどちらも襟のついていない服を着ることがない)、商売道具の拳銃を決して手放さない。行き過ぎたプロ意識の化身たるニールが最後の大仕事に向けて着々と計画を練り、もう一方の超・職業人であるヴィンセントはその尻尾を掴むために奔走する。

2時間50分の映画はその中盤までをたっぷり費やして、双方の仕事と生活を丹念に描きだす。主人公が2人である以上、また双方が法を挟んで対極に位置している以上、それぞれの物語を別個に伝える必要がある。言ってしまえば2人の大スターの主演作品が2本同時進行するようなもので、映画が3時間近いものになるのは当然のことだ(むしろ6時間でもいいと、今でも思っている)。

例えば、「今日はデ・ニーロとパチーノ、どちらの見せ場に注目しようか」と思って観始めても、結局いつも両方に見入ってしまう。本作はそういう映画である。作品のど真ん中で宿敵同士がついに顔を合わせるあたりを皮切りに、以降はいくつもクライマックスが登場する。

両巨頭がダイナーで机を挟んで向かい合う場面がその最初だが、考えてみればここでは強盗と刑事がお互いの仕事観について話しているにすぎない。だが、両俳優の真剣勝負というべきその会話の緊張感はどうだろう。トム・ヒドルストン(『マイティ・ソー』シリーズのロキ役など)が両俳優のものまねを交えて当該シーンを完全再現しているのを見たことがあるが、それほどに人々の心に深く刻まれた、これは歴史に残る名場面だった。

男と男が言葉を使った対決を済ませてしまえば、あとは力でぶつかり合うしかない。LAの街中で白昼に繰り広げられる、デ・ニーロの強盗団とパチーノ率いるロス市警の大銃撃戦。言うまでもなく、これも数多いクライマックスの一つだ。大物スターが実銃を用いて訓練を積んだという(考えてみればメソッド演技の大御所2人である。そりゃあ厳しいトレーニングを重ねたのだろう)12分間のあまりに激しい市街戦の描写は、その後の『ダークナイト』(2008年)や『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)など、無数の映画に影響を与えている。

両勢力が路上の遮蔽物に身を隠してリロードを繰り返す、あるいは数に劣る強盗組が見せる連携プレイなどなど、銃器描写に並々ならぬこだわりを見せるマイケル・マンならではの演出がピークを迎えて思わず息を呑む。

また、素晴らしいのはバケツを引っくり返したような弾丸の雨あられの中で、それでもデ・ニーロが、またパチーノが、それぞれ痺れるほどに格好いい妙技を見せてくれることだ。もはやここに至って、怒声と銃声以外の台詞はなく、言葉を超えて銃弾で語り合うしかない。巻き込まれる警官や一般市民にとってはたまったものではないが、常軌を逸した男たちの対決にはこういう帰結しかないのである。それを納得させてしまうのがデ・ニーロとパチーノの俳優力であり、またマイケル・マンの監督力なのではないかと思う。

12分の大銃撃戦以降も信じられないほどに濃密な見せ場が連発し、映画は終幕に向かっていくのだが、そこは本編を観ていただきたい。これは何しろ、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノという同時代の2大ヒーローが全てを出し尽くして最期まで戦った、一世一代の大巨編なのだから。

2人はその後、『ボーダー』(2007年)でも共演したが不完全燃焼に終わり、全身全霊の大勝負は『アイリッシュマン』(2019年)までお預けになってしまう。それまで、2人の熱い演技のぶつかり合いを堪能するには、この『ヒート』を繰り返し観るしかなかったのである。

ニールの部下役で出演しているヴァル・キルマー

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あまり語られることのないエピソードだが、本作で描かれた物語は実話を基にしている。1930年代からアメリカで暴れ回った実在の強盗ニール・マッコーリーと、60年代に入ってそれを追い詰めたシカゴ市警の刑事チャック・アダムソン。マイケル・マンはアダムソンに綿密な取材を行い、その聞き取りに基づいてテレビ映画『メイド・イン・L.A.』(1989年)を監督した。

これを雛形として完成させたのが、同作の実質的なリメイクである『ヒート』だった。それから14年、マンは『パブリック・エネミーズ』(2009年)でも、犯罪者と法の執行者の対決というテーマを映画にしている。人間同士の職業へのこだわり、そこから生じるどうにも避け得ない対決。マンのこだわった物語をデ・ニーロとパチーノが演じきった『ヒート』は、それぞれにとっての一つの到達点だったと思う。

文=てらさわホーク

てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。

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放送情報

ヒート
放送日時:2021年7月10日(土)18:00~、15日(木)21:00~
(吹)ヒート
放送日時:2021年7月15日(木)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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