終電を乗り過ごしたユリを、みるめら学生がトラックに乗せるシーンから物語が始まる。疲れているのか、力なくずるりと荷台に滑り込むユリの姿は、滑稽だが放っておけない気持ちにさせる。また美術学校でみるめと再会し、リトグラフを制作している部屋に「入んなよ」と誘い入れるユリの笑顔には、みるめを品定めするようでありながら、何か楽しい悪戯でも思いついたかのような、得体の知れない空気に満ちている。
2人の仲が進むと、ユリは自らのアトリエにモデルとしてみるめを招き、服を脱がせていく。恥ずかしがるみるめを楽しみつつ、積極的に振る舞うユリの姿は、まさに純な男を弄ぶ"小悪魔"だ。
最初のうちはユリが完全に主導権を握っている。初めてのキスシーンにもそんな雰囲気がありありと出ていて、立ち尽くすみるめを観察するように目を見開き、何度も音を立てて唇を重ねる。
小悪魔に翻弄される純な青年・みるめを演じる松山の演技も秀逸だ。アトリエで服を脱がされるシーンでは戸惑うあまり、唇が震えているのがわかるほどだ。キスシーンでも、未知の世界に放り出されてどうしたらいいかわからない、といったふうに、ユリになすがままにされている。
自由奔放で魅力溢れるユリと、どこまでも純で素直なみるめ。この2人の対比が、物語と映像をより印象深いものにしていると言えるだろう。
そして仲が深まるほどに、2人は本当に仲の良いカップルの姿を見せてくれる。部屋に敷くための空気マットに空気を入れるシーンや、ストーブに灯油を入れる時の他愛のないやり取りは、どこかで本物のカップルが交わしていてもおかしくないような、自然で好感が持てるシーンとなっている。
しかし前述したように、ユリには夫がいるのだ。みるめの思いは果たしてどこに向かうのか。また、みるめを思い続けているえんちゃんの恋の行方は?永作や松山、また蒼井らの名演によって、それぞれの思いが心に染み込んでくる本作で、恋の甘さと切なさを存分に味わってほしい。
文=堀慎二郎
放送情報
人のセックスを笑うな
放送日時:2023年6月8日(木)20:25~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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