本作で松本が演じているのは銀座でホステスとして働く成美。恋人である慎介と一緒に暮らし、彼を心配し、タクシーの中で「よかったあ。忘れられてなくて」と慎介に寄りかかる"ぶりっ子"系女子で、松本の声も成美の魅力の1つとなっている。
■恋人にも隠し事をしている成美を松本が好演
房総半島の工業地帯で生まれ育った成美は、デザインの仕事を夢見て東京の専門学校に通っていたものの、気がついたらホステスになっていたという流されやすいタイプの女性。27歳の冬に銀座のバーで慎介と出会い、すぐに一緒に暮らし始めた。断片的に蘇る交通事故の記憶にうなされる慎介を心配し、「大丈夫?」と優しく声をかけたり、新しいネイルを嬉しそうに見せる時には明るく無邪気に振る舞っているが、慎介をプロのバーテンダーとして育てた恩人でもある江島(生瀬勝久)から携帯電話に着信が入ると怯えた様子を見せるなど、独りになるとその表情は曇り、挙動不審になる。
一方、慎介は自分を殺そうとした男がマネキンのデザイナーであり、1年半前に事故で命を落とした美菜絵(高橋メアリージュンが1人2役を演じる)の夫だったことを知る。江島に事故の詳細を聞こうとするも、「忘れたほうがいい」とはぐらかされ、瑠璃子の誘惑に抗えずに、謎が謎を呼ぶ渦の中に巻き込まれていく。
事故が起きる前は幸せに暮らしていたであろう2人。恋人にすら助けを求められずに追い詰められていく成美の"光と影"を松本が実にリアルに表現している。
■忽然と姿を消した成美...人の心を狂わせる過ちと欲望の怖さ
ある日、成美は何も告げずに慎介の前から姿を消す。警察に捜索願を出す慎介だったが、江島も「茗荷」のママ・千都子(堀内敬子)も「振られたのではないか」と言って本気で取り合ってはくれない。
どこにもいられなくなった成美が道を歩きながら実の母親と千都子に電話をかけるシーンは、ボタンを掛け違えてしまった成美の人生が浮き彫りになるようで、ひときわ悲しい。徐々に覚醒していく慎介も、欲望に目が眩んだゆえに人生の歯車が狂ったことを自覚していく。人間関係と各々の思惑が複雑に絡み合う事件、その真相の全てを見ているようなショーウインドウのマネキンたち。見つめられたら動けなくなる瑠璃子のダイイング・アイ。キャストの演技も映像も音楽も、全てがミステリアスで見応えたっぷりだ。
文=山本弘子
放送情報
連続ドラマW 東野圭吾「ダイイング・アイ」 一挙放送
放送日時:2023年7月23日(日)10:50~
チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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