「清様は私のことをどう思っていますか?」と直球で聡子に聞かれても「いや、別に」とそっけなく答えてしまう清顕だったが、「私がもし急にいなくなってしまったら、清様はどうなさる?」という問いかけには初めて動揺した表情を見せる。そこからが清顕の悪夢の始まりだった。浮かぶボートのような棺桶を開けてみると聡子が横たわっていて、蝶がまとわりつく。うなされ、夢日記をつけるようになる清顕だったが、自分の気持ちを受け入れることができないゆえに周囲を巻き込むトラブルメーカーと化す。実直な親友・本多に聡子と付き合うように勧めたり、わざと嫌われるようなことを書いて面白がって聡子宛に投函したと思ったら、聡子の老女の蓼科に手紙を燃やすように連絡したりと青くささの暴走が止まらない。令嬢の聡子にはやがて宮家の殿下(及川光博)との縁談が持ち上がるのだが、"急にいなくなったら"が現実として迫ってくるやいなや、清顕は再び、蓼科を困らせる。身勝手で自意識の高い青年に妻夫木がなりきり、未熟な幼なじみに翻弄されながらも全てを受け入れるような微笑みと憂いのある表情で魅せる竹内から目が離せない。
■大正ロマン漂うシチュエーションやモダンな服装にも注目
雪が降った日に馬車の中で2人で交わす初めてのキス、まるでヨーロッパのようなお茶会。本作には大正時代のセレブたちのモダンで優雅なシーンが数々、登場する。と同時に満開の桜や紅葉に染まるお寺など、日本の四季折々の美しさが映像に閉じ込められている。聡子の着物姿や観劇に出かける時の薔薇を帽子にあしらったドレス姿も美しく和洋折衷の世界。
清顕もサスペンダーを愛用し、懐中時計を持っていたりと物語を彩るカルチャーも見逃せない要素となっている。本作で描かれているのは禁断の純愛。誰かを一途に愛するということが危うさ、儚さと背中合わせであることが伝わってくるから、なお切ない。妻夫木の演技は前半とのコントラストが見もの、振り回されても親友を案じ続ける本多の存在も際立ち、苦悩しながらも伯爵家の意向に背いたことの決着を独りでつけていくヒロインを演じる竹内の美しさと強さも胸に刻みつけられる。
文=山本弘子
放送情報
春の雪
放送日時: 2023年9月23日(土) 11:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
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