演出家・宮本亞門がミュージカル映画「ウエスト・サイド・ストーリー」を語る

スティーヴン・ スピルバーグ監督によってリメイクされた映画「ウエスト・サイド・ストーリー」
スティーヴン・スピルバーグ監督によってリメイクされた映画「ウエスト・サイド・ストーリー」

「ウエスト・サイド・ストーリー」© 20th Century Studios. All rights reserved.

「人間のパッション、混乱、怒り、悲しみ...それらが全て踊りに凝縮しているんですよね。その肉体表現のすごみに僕はガツーンとやられて、ミュージカルというものは本気でやっていくのにふさわしい仕事なんだと思ったんです。ただ、やる以上は生半可じゃできないんだという覚悟も固まりました。後に友人になったソンドハイムに当時の制作状況を聞くと、みんな命を削って血へどを吐きながらギリギリまで追い込んで作っていた、と。作品の完成度が高過ぎて、見るたびに『僕はこれを超える作品を作れるのだろうか...?』と問われている気がします」
 
そんな名作をスティーヴン・スピルバーグ監督が現代によみがえらせた。本作の感想について、宮本さんは「オリジナル版以上に生々しく、現実を突き付ける作品だった」と語る。

「ミュージカル映画の難しさはダンスシーンにおける画面の凝縮度。オリジナル版はあまりにダンスシーンがすさまじかったので、それを超えるのは難しいだろうな...と思っていましたが、スピルバーグ版は人種の分断の問題をよりリアルに提起する方向の作品に仕上がっていました。オリジナル版でアニタ役を演じたリタ・モレノを、今回の映画ではバレンティーナという新しい役で登場させています。彼女の存在をシンボリックに立てることで両サイドの人間を描き、分断の中でうごめいている闘いの渦に観客を巻き込んでいくような演出はすごくよくできているなと思いましたね」
 
今この時代に本作を作った意味についても考えさせられる。

「僕がこの映画で最も名せりふだと思うのは、マリアの『How do you fire it?(どうやって撃つの?)』。マリアが使い方の分からない銃を構えながら訴えるシーンで、これは『いつまで争いを繰り返せば気が済むの?』と全世界に言っているように感じました。人間はいつの時代も人を憎み、殺し続けるという過ちを繰り返すものなんだという教訓が詰まっています。この作品は単なる非行少年たちのケンカの物語ではありません。#MeTooやBLM(ブラック・ライヴズ・マター)みたいなことが世界中で起きて、意識や価値観が大きく変わってきた時代に、我々はどうあるべきなのか、何ができるのかを問いかけてくれる、"今を見る"ことができる映画だと思います」

みやもと・あもん●1958年1月4日生まれ、東京都出身。2004年にNY・オンブロードウェーで「太平洋序曲」を上演し、トニー賞4部門ノミネート。11/23(木・祝)~ 26(日)に東京・日生劇場で「午後の曳航」を上演。NHK連続テレビ小説「ブギウギ」に出演。

取材・文=山崎ヒロト

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放送情報【スカパー!】

ウエスト・サイド・ストーリー

放送日時:11月4日(土)21:00~

放送チャンネル:スターチャンネル1
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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