独特の世界観を美しく彩るのは、実力派俳優たちの名演だ。特に、温度を感じさせない染谷の瞳には、終始ゾクリとさせられっ放しだ。染谷は千尋の脆さと内に孕んだ熱と狂気を見事に表現しており、彼の声、表情、その一挙手一投足に、恐れを感じながらも、どうしようもなく惹かれていく。そんな彼と共にダンスを踊る石田もまた、鍛え上げられた肉体と、心に秘めた繊細さで直也を熱演。2人の緊迫感溢れる演技は目を見張るものがあった。
印象的だったのは、喫茶店での染谷と石田が「怖いもの」について語り合うシーン。芝居なのかドキュメンタリーなのか分からないくらい自然な会話のやりとり。そして、その中に滲む2人ならではの得体の知れない不気味さは秀逸だった。
「不気味なものの肌に触れる」というタイトルでありながら、「触れてはならない」と真逆の言葉が繰り返される本作。触れずに、抱擁するという二律背反を要求されるダンスを通して、濱口監督が伝えたかったこととは? 映画を見て、それぞれの感性で、その答えを探してみてほしい。
文=鳥取えり
放送情報【スカパー!】
不気味なものの肌に触れる
放送日時:4月24日(水) 2:35~
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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