花組トップ娘役・星風まどかが演じるライラは、自立した賢い女性だなと思う。本当はシンクレアに、軍籍を捨ててでも自分と共に生きてほしいはず。でも、そういう自分を理性で抑えることができる。その一方で、抑えきれない自分との戦いもあって、言っていることと本音が食い違って混乱してしまうが、そこがいじらしく、同じ女性として共感してしまう。
民族も育った環境も全く異なる主人公カップルにとって、相手の立場に立って考えるというのは難しいことだ。それでも一生懸命寄り添おうとする二人。
息の合った芝居を見せるトップコンビだが、2月〜5月に上演される「アルカンシェル」での退団が決まっており名残は尽きない。
裁判においてシンクレアを懸命に弁護するのが、親友のクリフォード(永久輝せあ)である。理想主義者のシンクレアとは違って現実的で割り切ったところがある。そして緊張感の高い場面が続く中で和ませる微笑ましい場面もある。シンクレアとクリフォードの友情の絆も、この作品の見どころの一つだろう。
ライラの弟のアルヴァ(希波らいと)、軍の古参兵のノヴァロ(綺城ひか理)。物語の展開に重要な役割を果たす役どころを、花組男役らしい華やかな存在感で見せる。
脇を固める人々の中ではハウザー大佐(凛城きら)の存在感が光る。難しい立場に立たされながらもユーモアを忘れない、人間味溢れる人物像を創り上げている。
主人公カップルと対比して描かれるラシュモア軍曹(羽立光来)とエルサ(朝葉ことの)も素敵だ。ラシュモア軍曹は包容力を感じさせるいい男だし、エルサにも愛に生きる潔さがある。
憎まれ役のクェイド少佐(航琉ひびき)は単なる悪人ではなくて、彼は彼なりの論理があって行動しているのだという面を感じさせた。
決して爽快なカタルシスを味わえる作品ではない。自分と異なる立場、価値観を持つ人のことを理解する難しさを改めて突きつけられる。さりげないセリフのやり取りが、グサグサと胸に突き刺さる。
それでも、理解しようとしなくてはいけないのだ、と。これができるだけで、世界の至る所にある争いも少しは防げるかもしれない。だから、やっていこうという努力はしないといけない。希望を残すラストシーンからは、そんなメッセージも伝わってくるのである。
文=中本千晶
放送情報【スカパー!】
二人だけの戦場(’23年花組・梅田芸術劇場)
放送日時:4月6日(土)23:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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