話が進むにつれて、伊達のバックボーンが少しずつ描かれてくる。通信社の記者として、地獄のような戦地でシャッターを切り、少しずつ心に負荷がかかってくる。こちらも今の時代で言えば、PTSDに悩まされる青年ということなのだろう。
地獄絵図がフラッシュバックする。そのトラウマに抗うのか、従うのか、どちらともいえないような形で、次々に人を殺めていく。まさに狂気の沙汰であるが、一方で、銀行強盗を行うために、防犯カメラの位置や、警察がやってくる時間などを確認するなど、綿密に計画を練る細やかさもある。
そんな相反する行動を、まったくと言っていいほど無感情で行う狂気性は、松田にしか出せないような表現だ。本作で松田は、伊達を形作るため、10キロ減量し、奥歯を4本も抜いたというが、伊達という男の過去が分かってくるにつれて、さらに不気味さが増していくというのは、松田の持つ奥行きだろう。
映画公開時、松田は31歳。その後、「家族ゲーム」や「探偵物語」、「ブラック・レイン」などの名作を残しているが、最終的に40歳で亡くなる松田にとって、ちょうどキャリアの中盤に当たるのが本作。唯一無二という意味では、その存在感を強く示した映画だったと言える。
本作には、伊達の相棒となる真田徹夫を演じた鹿賀丈史、伊達を執拗にまで追う刑事・柏木役の室田日出男、マドンナ役の小林麻美が強い存在感を示しているが、それ以外にも、風間杜夫、岩城滉一、安岡力也、泉谷しげる、岡本麗、阿藤海(当時)らが短いシーンながら登場している。その後の重厚な佇まいを知ってから見ると、彼らの若かりし頃の姿は非常に新鮮だ。
文=磯部正和
放送情報【スカパー!】
野獣死すべし(1980)
放送日時:11月6日(水)21:00~ほか
放送チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
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