大きな出来事はなく進んでいく物語の中で、目を見張るのはやはり橋本と門脇の演技力。東京で過ごしたというプライドが見え隠れしつつも何もない地元に出戻った現状への絶望感が漂っている現在の"私"。ただ椎名に対しては別で、彼の話をするときは学生時代の憧れがいまだに抜けず期待を抱いている表情を浮かべる。その普通を装いながらもどこか浮き足立つ感じを橋本は繊細に表現。上映イベントで橋本は「当時21歳の私が劇中でちゃんと27歳に見えるのか。6年の未経験部分の演技はとっても難しかったです」と語っていたが、子どもではない"私"の心の動きを見事に体現している。また高校時代、憧れの椎名に誘われたときやプールでの笑顔が青春そのもので、現状との対比として秀逸。そのまぶしい笑顔から、"私"にとってあの時が一番輝いていたことが伝わってくる。
一方、"あたし"を演じた門脇のなんとも言えない焦燥感と退屈がつまった表情も素晴らしい。受け入れられない現状にいらだち、朝方の橋の上で1人絶叫する姿は、全身からイライラが伝わってくる。そんな"あたし"も高校生のころはキラキラ輝いていて、椎名と仲の良いところを他の生徒たちに見せつけ、自尊心を満足させる姿は印象的。少ししか登場しないが、"あたし"があの時代を一番愛おしく思っているに違いないと感じさせる演技を見せる。
そして本作で一番大事になってくるのは、高校時代の椎名のキラキラ度。誰もが憧れて、10年経った今でも思い出す椎名は相当インパクトがあるはず...と考えがちだが、成田はひょうひょうと等身大で演じた。そのどこにでもいそうだけど、高校生活では特別に映るというのが、より本作をリアルにしている。青春時代だからこそ輝いて見えるもの...それこそがまさに椎名だったと言える。そんな椎名をアンニュイな雰囲気で体現し、つかみどころのない感じの青年に。まさにハマり役とも言える。
青春の終わりが描かれる本作。登場人物たちがフジファブリックの「茜色の夕日」を口ずさんでいくシーンは必見。地方都市のよくある情景をドラマチックに見せた、若手俳優たちに注目しよう。
文=玉置晴子
放送情報【スカパー!】
ここは退屈迎えに来て
放送日時:11月5日(火)07:25~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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