織田が演じる主人公・富樫は、あまり愛想は良くないものの、仕事熱心で仕事仲間や友人から絶大な信頼を寄せられている青年。吉岡が雪山で亡くなった後、吉岡の遺品でもあるコンパスを贈り主の千晶に渡すため、東京で暮らす千晶のもとを訪れるなど、行動派であることが見てとれる。勤め先のダムがテロリストに占拠されたと知った時には、迷うことなく仲間を救うために武装した敵と戦うことを決意するなど、心身共にタフな存在であることが描かれていく。

そんな富樫を織田は、極寒の雪山や広大な発電所内を縦横無尽に駆け巡るという過酷な撮影にも体当たりで挑み、熱演した。同僚の命が次々とテロリストたちに奪われる中でも悲しみに溺れることなく、知恵と勇気を振り絞り続けながら孤軍奮闘する富樫。そんな彼を演じる織田の真摯な演技が観る者の心を揺さぶり、物語へと引き込んでいく。

富樫がかつて吉岡と雪山のテント内で過ごしたことを思い出す場面では、織田も石黒もナチュラルな笑顔を披露しているが、2人は実生活でも親友という関係。映画冒頭やこの回想シーンで織田と石黒の間に流れる圧倒的な信頼関係が、長い年月をかけて積み上げられたものであることを念頭に置いて観ると、感動もひとしおだ。

そして、突然テロリストに拉致されながらも冷静さを失わず、気丈に振る舞う吉岡の婚約者・千晶を、松嶋が演じている。本作での松嶋は華やかなスターオーラを封印して、笑顔を見せないシリアスな役柄を好演。ガンアクションにも挑み、新境地を切り拓いた。

また、冷血非道なテロリストのボスに扮する佐藤浩市や、その部下役の吹越満を始め、多彩なキャストが脇を固めた本作。富樫の部下で、千晶をかばう最年少職員・雨宮健二を当時20歳の高橋一生が熱演しているのも見逃せない。

「振り返れば奴がいる」、「お金がない！」、「やまとなでしこ」などTVドラマの秀作を数々手掛け、織田や松嶋と幾度もタッグを組んできた若松節朗の映画初監督作でもある、手に汗握るサバイバル・サスペンス。ハリウッド超大作にも匹敵する壮大なスケールの物語の中で彼らを待ち受ける結末を、織田と松嶋の熱演に注目しながら見届けてほしい。

文＝中村実香