
(C)2024 映画「マイホームヒーロー」製作委員会
できればドラマ版から見てほしいのだが、ドラマ版から始まるシリーズでの佐々木の哲雄というキャラクターに対する理解の深さに驚かされる。哲雄はどこにでもいる普通のサラリーマンで、年頃の一人娘の零花から疎ましがられているところが玉に瑕だが、愛する妻・歌仙(木村多江)もいて、幸せに暮らしていた。そんな中、零花が半グレ組織に属する男と付き合っていることが発覚し、しかもその男は零花を利用するために近づいていたこと知った哲雄は、娘を助けたい一心から思いがけなく男を殺してしまう。そして、零花には気付かれぬよう、歌仙と共に証拠を隠滅。半グレ組織や組織を束ねるヤクザから疑われながらも、ミステリーの知識を駆使して何とかやり過ごし、家庭の平和を守るという物語がドラマでは描かれた。
そんな過去を踏まえて、劇場版では哲雄が再び窮地に陥るところから始まる。どこにでもいるうだつの上がらない中年男性が、自分の身を危険にさらして家族を命懸けで守る中で"ドロ臭いカッコよさ"を纏っていくという変化を描いたドラマ版。その7年後という設定の中で、佐々木は7年間かりそめの平和を過ごしながらも、どこか気を張っているような、常にアンテナのスイッチが入っているような状態を保った哲雄として登場。しかも7年の間に、零花は捜査一課の刑事となり、加えて歌仙との間に長男も生まれたことで守るべきものが増え、7年前の秘密はより知られてはいけないものとなっている。より過酷な状況の中で物語が展開していくため、哲雄の考えるべきことや心情は一層複雑に入り組んだ状態なのだが、そんな複雑な心情を抱えながらも一家の主として泰然と向き合う哲雄を、あくまで"普通の中年男性"の枠からはみ出すことなく表している。

(C)2024 映画「マイホームヒーロー」製作委員会
その礎には、ヤクザにバレて自身と家族の命を狙われ始めた上、零花に「事の発端は自分を守るためだった」ということが知られないようにしなければいけないという、四面楚歌の状態に置かれながらも、家族のために決して心は折れないし諦めない"父親としての信念"がある。力も権力もないが、家族を思う気持ちが恐怖心を凌駕して、さまざまな困難に立ち向かっていくさまを佐々木が丁寧に描いていることで、作品に込められたメッセージが際立っている。
また、ドラマ版から一番変化のある零花を演じた齋藤の演技力にも触れておきたい。ただの女子大生だった零花も、7年の時を経て、彼女なりの正義と信念を持って刑事となっている。そんな精神的にも強くなりガラリと変化した零花を齋藤が見事に作り上げている。女子大生だった頃のか弱さや少し冷めた性格はなりを潜め、ドラマ版で描かれた事件をきっかけに、7年間で大きく変わった零花の人間性を詳らかに表している。
中でも、すべての真実にたどり着いた瞬間の演技は圧巻。十数秒間にわたって瞬きをせず、驚きと真実を受け止めきれない困惑と信じたくない気持ち、自分に向けられ続けていた両親からの愛など、さまざまな心情がないまぜとなった零花を表現。目からこぼれ落ちる一筋の涙は、百万言を超えて観る者の心にずしりと何かを伝えてくる。
家族を守るために奮闘する哲雄の行き着くゴールはどんなものなのか、原作とは異なる結末を楽しみつつ、佐々木のドラマ版を踏まえて演じる哲雄の心情と、齋藤のドラマ版から大きく変わった零花の内面にもぜひ注目していただきたい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
映画「マイホームヒーロー」
放送日時:2025年8月31日(日)21:00~、9月11日(木)14:30~
チャンネル:WOWOWシネマ
放送日時:2025年9月2日(火)20:00~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
詳しくは
こちら