伊藤沙莉、「伸び伸びしている感じは自分ともリンクしている」役柄とは――映画『風のマジム』

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©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社

――まじむを演じる上で、特に"食べる・飲むシーン"はどのように意識していましたか

「特に食べるときは、人が一番油断している瞬間だと思います。伊藤のままでいちゃってる部分もきっとあると思うし、美味しい顔もそんなに何十パターンもあるわけじゃないので、自然と伊藤のエッセンスは入っていると思います。でも、その集合地点がちゃんと出ればいいなと思っていました。実際に私自身も大東寿司を食べたときに『こんなのあるんだ』『おいしい』と感じましたし、まじむも同じように知らない世界や味に出会っていく。その驚きや喜びは、人はそんなに違わないんじゃないかなと思います」

――実際にラムは飲まれましたか?

「飲みました。まず打ち合わせのときに、制作会社のコギトワークスでアグリコールラムなどいろんな種類をずらっと並べてもらって、本当に"ゴローさん"がやっていたみたいな感じで飲み比べさせてもらったんです。撮影では水になっちゃうので、その前に本物を体験させてもらえてよかったですね。その後は高畑さんと一緒に『こっちの方が甘いね』なんて言いながら飲み比べたり、ラムしか出していないお店にも連れて行っていただきました。そこはラム協会の方がやっているお店で、種類や歴史を教えていただきながら、ラムそのものはもちろん、カクテルもいろいろ楽しませてもらって。まさに"ラムのワンナイト"を過ごした感じで、すごく楽しかったですし、美味しいラムに目覚めましたね。ラムってさっぱりしていて、ほのかに甘みもあるので、そのまま飲んでも意外とクイッといけちゃうんです。私はグラッパも好きなんですけど、ラムはそれよりも優しさがある感じ。だからこそ、まじむが初めてラムを口にしたときのシーンの参考にもなりました。強さはあるけど喉にグッと来ない、そんな味わいが印象的でしたね」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社

――主人公・まじむと伊藤さん自身に近い部分があったからこそ、実現できたこともあったのではないでしょうか‎

「そうですね、それはすごくあったと思います。あまり取り繕わないというか、伸び伸びしている感じは、自分ともリンクしていたので、やりやすかったですね」

――映画の中でまじむは、人をどんどん巻き込んで夢を追いかけていきます。伊藤さんご自身にも、そうした経験はありますか?

「きっと何かをやるというのは、私に限らず、みんな巻き込まれたり巻き込んだりしながら進んでいくものだと思っています。例えばオーディションを受けて合格するのも、巻き込まれていっていることの一つなんだと思うし、私のために何か動きたいと思ってくれた人がいたとしたら、どこかで無意識に巻き込んでいるんだと思います。あとは、"NONBEE"というブランドをやっている櫻井孝男さんとのグッズ展開では、色や形について意見を言ったりして、それが形になって『嬉しい』と見せてくれるんです。最初は私が巻き込まれているんですけど、そこから派生して『こういう服作ってみない?』と声をかけてもらい、特に私のブランドとして立ち上げているわけではなく、一緒にデザインを考えたりすることもあります。意外と自分から風を起こしていることも、たまにはあるかもしれないですね」

©2025 映画「風のマジム」 ©原田マハ/講談社

――ご自身が大切にしている言葉を教えてください

「『勝って兜の緒を締めよ』という言葉を私のマネージャー がよく言ってくれます。最初は自分が勝った経験があるみたいで生意気だなと思っていましたが、今ではすごく大事な心得だと感じています。何か成功体験があっても、そこにしがみつかず、ますます気を引き締めていかなきゃいけないという教えです。これは自分がブレないために、とても必要な考え方だと思っています。あとは、お母さんの言葉や考え方も自分の軸になっています」

――今回の映画のテーマのひとつが"真心"だと思いますが、最近その"真心"(=偽りや飾りのない真実の心)を感じた出来事はありますか?

「姪っ子の成長を見たときに、すごくキュンとしました。彼女は2歳なんですけど、以前は分け合うことがとても苦手な子で。でも最近、久々に会ったときにポテトチップスお菓子を食べていて、『ちょうだい』と言ったら、紙皿を出してきて、何個も入れて『はい、どうぞ』って渡してくれたんです。保育園でいろいろ学んで帰ってきて、きっと分け与えることが楽しくなってきたんだと思います。彼女の中に芽生えた優しさの成長がすごくほっこりして、ちょっと泣きそうになりました」

(C)黒木早紀子

――映画づくりとお酒づくりには、ものづくりとしての共通点があるように思います。実際に演じてみて、どう感じましたか?‎

「自分たちがこだわりたいことや追求したい部分、人に届けたい思いに対して、どう真摯に向き合うかという点は共通していると思います。劇中でおばあが『人の口に入るもの』と教える場面がありますが、それは映画にも通じるものだと感じました。特に私たちの仕事はチーム戦で、誰かが欠けても成り立たない。こだわろうと思えばどこまでもこだわれるし、逆にどこで抑えるかを考えながら、自分たちが納得できるクオリティーに持っていく。そうした過程が、ものづくりそのものとつながっていると感じました」

――最後に、映画を楽しみにしている方へメッセージをお願いします

「温かい心でこの映画を見てもらえたらと思います。今の世の中は少し殺伐としていますが、この作品には温かさがあります。清らかな気持ちで人を応援したり、人の意見やアドバイスをピュアに受け取って、スポンジのように吸収して、またそれを返していく――そんなまじむの魅力を感じてほしいです。映像的にも美しい沖縄の風景や美味しそうな料理が出てくるので、目や耳、そして心で楽しんでいただけたら嬉しいです」

文=HOMINIS編集部

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作品情報

「風のマジム」
2025年9月12日(金)より全国公開
出演:伊藤沙莉/染谷将太/尚玄/シシド・カフカ/橋本一郎/小野寺ずる/眞島秀和/肥後克広/滝藤賢一/富田靖子/高畑淳子
原作:「風のマジム」原田マハ(講談社文庫) 
脚本:黒川麻衣 監督:芳賀薫 

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