見どころは、沢口が同時期に演じ分けてきた乃里子とマリコ、ふたつのキャラクターの違いだ。ラボにこもり科学的な追究心で真実に迫るマリコに対し、乃里子は現場に自ら足を運び、聞き込みを重ねながら事件に関わった人々の心の機微に目を凝らす刑事。同じ俳優が演じているとは思えないほど、佇まいも歩き方も表情の作り方も異なる。年に一本のペースで大切に積み重ねられてきたこのシリーズは、時刻表トリックのミステリーであると同時に、日本各地のローカル線とその土地の空気を旅するような魅力も併せ持つ。会津の四季の美しさに導かれるように事件を追う乃里子の姿は、いま見ても色褪せない。
本作の面白さは、単なる犯人当てにとどまらない。土産物という何気ない日常の品にひそむ悪意、駅という誰もが行き交う公共の場で起きる殺人、そしてトロッコ列車と地方紙の日付という細部が示す時間差のトリック。西村京太郎作品ならではの緻密な仕掛けを残しつつ、疑われる後輩を気にかけながら事件を追う乃里子の姿には、刑事ドラマでありながらどこか人情ドラマのような温かさも漂うのがいい。旅情あふれるロケーションの中で繰り広げられるサスペンスは、二時間ドラマ黄金期を支えた土曜ワイド劇場らしい贅沢な作りで、当時の空気ごと今の視聴者を引き込んでくれるはずだ。
沢口は2月には映画「木挽町のあだ討ち」で柄本佑と共演し新たな役に挑み、5月からは舞台「東京喜劇 熱海五郎一座」新橋演舞場シリーズにも出演するなど、次々と新しい現場に立ち続けている。その実直な仕事ぶりこそが沢口靖子という俳優の真骨頂だろう。この夏は、会津路を駆けるもう一人の相棒・花村乃里子に会いに出かけてみてはどうだろうか。
文=川崎龍也











