「ミッドナイトスワン」などで知られる内田英治監督が原案・脚本も担当した本作は、夜の犯罪社会で生きる母親の姿を描くヒューマンサスペンス。北川は子どもたちを守るために違法薬物の売買に手を染めるシングルマザー・夏希を熱演している。
ストーリー序盤の夏希は、勤務先のスナックで客から酒を煽られ一気飲みし、昼のパート先では上司に嫌味を言われても静かに耐え、ホテルの清掃の仕事では覇気のない顔で淡々とシーツを畳み...と、働き詰めにもかかわらず困窮した生活で疲弊し、彼女の精神がすり減ってしまっていることを、北川の表情は物語っている。子どもたちの前でも焦燥を隠し切れなかったり、時には涙を流したりと、先の見えない状況に絶望している夏希の気持ちが痛いほどに伝わってくる。
そんな生活の中で、子どもたちを守るために違法薬物の売買に手を出すことを決めた夏希。取り引きの際には緊張感溢れる面持ちになり、夜の街を仕切っている麻薬密売の元締めと対面することになるなど、日常は一変していく。それでもアングラな世界を突き進んでいく夏希の母親としての覚悟を、北川が鬼気迫る演技で体現した。
夏希とともに仕事をする多摩恵を演じたのは、本作で「第49回日本アカデミー賞」の最優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞した森田望智。最近では2027年度前期 NHK連続テレビ小説「巡(まわ)るスワン」のヒロインの座を射止めたことで話題となったが、本作でも確かな演技力を見せた。

多摩恵は夜の世界のルールを知らない夏希を見かねて手を差し伸べるわけだが、実は彼女も格闘家としての夢を追う一方で、生きるために風俗店に勤務する生活を送っており、心の中には孤独を抱えている。夏希と出会い、子どもたちも含めて一緒に食事をしたり、習い事の発表会を見に行ったりと家族の一員のように過ごす中で変化していく多摩恵の心境を、森田は少しずつ柔らかくなる表情やセリフ回しで表現した。
当初は互いに苦しい状況に置かれていた夏希と多摩恵。そんな2人の間に信頼関係が芽生え、次第に笑顔になることが増えていく様子を見ていると、どこか胸が温かくなる。とは言っても、2人がしているのは後ろ暗い仕事。平穏な日々はそう長くは続かず、とある女子大生の死をきっかけに、彼女たちの運命の歯車は再び狂い始める...。
北川と森田、それぞれが見せた息をのむ演技に注目しながら、物語の行く末を見届けていただきたい。
文=HOMINIS編集部










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