そんな本作の魅力を決定づけたのが、加賀恭一郎を演じた阿部寛の存在だろう。原作では容姿の描写こそあれど、読者が思い描く人物像はそれぞれ異なる。ドラマ化には、ファンからの反発も当然あっただろうし、違和感を覚えた人もいたはずだ。だが、阿部寛はそうした固定観念を見事に塗り替えてみせた。今では「加賀恭一郎=阿部寛」として原作を読み進める人も多いことだろう。
なかでも印象的なのは、その鬼気迫る眼光である。普段の穏やかな顔つきから一転、事件を見つめる瞳は極めて鋭く、犯人をじわじわと追い詰めていく。そこには執念や覚悟、そして簡単には言い尽くせない感情が宿っていて、ゾッとすることすらある。加賀の目には一体、何が映っているのか。
一方、そんな加賀と対峙する博美を演じるのは松嶋菜々子。警察を前にしても微動だにしない博美は、やっかいな難敵と言える。しかし、卓越した推理力と捜査力で迫る加賀によって、その完璧な仮面に少しずつ亀裂が生じていく。凛とした美しさが揺らぐ瞬間や、彼女の過去が明かされた後に見せる表情など、松嶋の細やかな演技は圧巻。観る者の心を掴んで離さない。
物語終盤、この物語の鍵となる加賀恭一郎と浅居博美が背負う「過去」に触れたとき、「祈りの幕が下りる時」が単なるミステリーでは終わらないことに気づく。切なさと温かさが入り混じる余韻が、静かに、そして深く残る――。
文=浜瀬将樹








池井戸潤原作の名作ドラマ「下町ロケット」" width="304" height="203" loading="lazy" fetchpriority="high">

