(c)Recorded Picture Company
一方で、坂本の音楽は壮大なスケール感を持ちながら、どこか物悲しさも感じさせる。それは、主人公・溥儀の数奇な人生とも重なっている。
溥儀は皇帝でありながら、決して自由ではない。幼くして周囲から「皇帝」と呼ばれ、広大な紫禁城の中心に立ちながら、自分の人生を自分で選ぶことができない。その後も時代や政治に翻弄され続ける彼の人生は、一見すると華やかな歴史絵巻のようでいて、実際には孤独の連続でもある。
そうした溥儀の複雑な心情を、坂本は音楽によって巧みに表現している。荘厳なオーケストラの響きが皇帝としての威厳を際立たせる一方で、その旋律にはどこか切なさが漂う。華やかな宮廷の風景を彩るだけでなく、その裏側にある一人の人間としての感情まで浮かび上がらせているのだ。
坂本は映画音楽について、映像に寄り添いながら登場人物の心理を表現することの重要性をたびたび語っている。『ラストエンペラー』もまさにそうだ。音楽単体で聴けば美しい。だが映画の中で流れることで、その旋律は溥儀の感情や、彼を押し流していく時代の大きさまで感じさせる。坂本の音楽によって、歴史上の人物だった溥儀が一人の人間としてこちらに近づいてくるのだ。
また、本作ではスクリーンに映る坂本の姿も見逃せない。演じた甘粕は、満州国の建国や映画会社・満映に深く関わった人物。坂本は多くを語らず、硬質な佇まいでその存在感を示している。『戦場のメリークリスマス』でもそうだったが、坂本にはどこか近寄りがたく、それでいて目を離せなくなる独特の華がある。音楽家として映画を支えながら、その映画の登場人物として画面の中にもいる。この不思議な二重性も、『ラストエンペラー』における坂本龍一の面白さだろう。
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本作でアカデミー作曲賞を受賞した坂本は、その後も『シェルタリング・スカイ』『リトル・ブッダ』でベルトルッチ監督とタッグを組み、『レヴェナント:蘇えりし者』や『怒り』『怪物』など、国内外の数多くの映画で音楽を手がけていく。そう考えると、『ラストエンペラー』は単なる代表作の一つではなく、坂本が映画音楽家として国際的な評価を確立し、その後の活動の幅を広げていく大きな転機となった作品だ。
4Kレストアによって蘇る紫禁城の鮮烈な色彩や圧倒的なスケールはもちろん見どころだが、改めて注目したいのは、その映像の裏側で鳴っている坂本の音だ。豪華絢爛な歴史の中から、一人の人間の孤独をすくい上げる。その旋律に耳を傾けることで、『ラストエンペラー』という映画はまた違った表情を見せてくれるはずだ。
文=川崎龍也




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