一見華やかな日本物ショーだが、じつは一本筋の通ったストーリーが織り込まれている舞台『白鷺の城』。狐の化身である「玉藻前」と、狐の血を引く陰陽師との時空を超えた恋物語である。
男はさまざまな人物に転生していくが、常に玉藻前を追い求めている。転生していく男を演じるのが宙組トップスター・真風涼帆。平安時代の公達、古代中国の皇帝、戦国時代の武将、江戸時代の粋な若者とさまざまな姿を見せてくれる。タカラヅカの日本物で見たい男役の姿がすべて拝める美味しいショーでもある。
真風は熊本県出身。熊本といえば上月晃、そして轟悠とトップスターを生み出した県だ。2006年入団。星組に配属され早くから注目されたが、入団10年目の2015年に宙組に組替え、2017年にトップスターとなった。星組育ちらしい熱さと宙組の大らかさを兼ね備えたスターである。
軍服などのコスチューム物が似合う印象が強かったが、この作品ではどの場面の衣装も良く似合い、日本物への新たな期待も高まった。次回作の『El Japon(エル ハポン) -イスパニアのサムライ-』も楽しみだ。
魔性の女・玉藻前はトップ娘役・星風まどかが妖しく美しく、健気に演じる。玉藻前といえば「玉藻前伝説」で知られる女性だ。玉藻前は鳥羽上皇の寵姫だったとされるが、その正体は九尾の狐であり、古代中国の傾国の美女・妲己であったとか、陰陽師・安部泰成によって殺生石に封じ込められたといった伝説である。本作もこれらの伝説を踏まえて作られている。
上演時間は約45分と意外に短く、さまざまな時代を行ったり来たりしながらスピーディに展開していく。さて、各場面で真風涼帆はどんな人物に転生していくのだろう?
第1景は江戸時代初期(17世紀初め)。白鷺城に化け物退治にやってきた宮本無三四(桜木みなと)らに、陰陽師の幸徳井友景(真風)がこれまで繰り返し見てきた夢を語り始めるところから物語は始まる。
第2景は平安時代後期(12世紀後半)。陰陽師・安倍泰成(真風)の前に鳥羽上皇の寵姫、玉藻前(星風)が現れる。その正体は九尾の狐だった。
第3景は平安時代中期(10世紀前半)。泰成のルーツを描く場面。狐の化身である葛の葉(松本悠里)は、夫・安倍保名(愛月ひかる)と息子・晴明とともに幸せに暮らしていたが、息子の将来を案じて身を引く。
第4景は古代中国〜奈良時代(8世紀前半)。九尾の狐が化けた絶世の美女、妲己(星風)が殷の紂王を待ち続けている。ようやく紂王が現れたかと思いきや、それは吉備真備(真風)だった。帰国する真備を追って九尾の狐も日本に向かう。
第5景は戦国時代(16世紀中頃)。狐の血を引く軍師、栗林義長(真風)は主君の岡見宗治(芹香斗亜)とともに出陣する。宿命の女性との恋が今生で叶わぬと悟った義長は討死する。
第6景は再び江戸時代初期(17世紀初め)。殺生石に封じ込められていた玉藻前が蘇り、白鷺城の天守閣に現れるが、無三四が刺してしまう。彼女こそ夢で会った女性だと知った友景は自刃して後を追う。雷鳴の中、葛の葉の生まれ変わりである富姫(松本悠里)が姿を現す。
第7景は江戸時代。富姫の祈りで市井の男女に生まれ変わった2人(真風・星風)は、ねぶた祭りで再会。共に手を取り合い歩んでいく。
文楽や歌舞伎が好きな人にとっても興味深い作品である。玉藻前伝説を元にした『玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)』という作品が文楽にはあるし、第3景の「葛の葉」の話も文楽や歌舞伎の『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』でおなじみだ。
1000年の時を経てハッピーエンドな恋物語は、深掘りすると色々と奥が深い。タカラヅカ・スカイ・ステージの放映で見直して新発見を楽しもう。
文=中本千晶
放送情報
『白鷺の城』('18年宙組・東京・千秋楽)
放送日時:2019年11月10日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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