タカラヅカには大劇場で華やかに見せる作品のほか、中小劇場でじっくり芝居を見せる作品もあるが、本作もその系譜にあたる。ドイツの国民的作家フリードリッヒ・フォン・シラーの名作のミュージカル化だ。18世紀ドイツ文学の世界に沸き起こった「シュトゥルム・ウント・ドラング」(疾風怒濤=理性よりも感情を重視しようという考え方)運動の代表作として知られる。同時代の作品ではゲーテの「若きウェルテルの悩み」も2013年にタカラヅカで舞台化されている(題名は『春雷』)。
18世紀のドイツ、モール伯爵の嫡男カール(芹香斗亜)は自由を求め、恋人アマーリア(天彩峰里)を故郷に残しライプツィヒの大学に進学する。ところが叔父と庶子である義弟フランツ(瑠風輝)の策略により、父から不本意な勘当を受け、さらにその父を幽閉されてしまう。
地位を失ったカールは、貧富の差を無くすという理想を掲げ、学友らとともに貴族から金品を奪い、貧しい人々を救う義賊として立ち上がる。最初は貧しい人々に熱狂的に受け入れられたが、カールが実は元貴族であると明らかになったことで状況は一変。追われる身となったカールはアマーリアの待つ故郷に向かうが...。
主演の芹香斗亜は2007年入団の93期生。同期で活躍する男役には雪組の彩風咲奈や星組の愛月ひかるらがいる。初舞台後は星組に配属。ちなみに愛称の「キキ」はサンリオのキャラクター「キキとララ」のキキに似ていると言われたことに由来しているとのこと。そんなチャーミングな容貌の持ち主でもあり早くから注目を集めてきたが、2012年に花組に組替えとなり、入団10年目の2017年には宙組に組替えとなった。組替え後は一皮向けて男役の色気もさらに増し、『異人たちのルネサンス』のロレンツォ・デ・メディチのような色悪から『オーシャンズ11』のラスティのような明るくコミカルな役どころまで、役者としての幅をさらに広げている。
『群盗-Die Räuber-』のカールは、そんな芹香にぴったりの役どころだ。物語の前半には天性のノーブルでスタイリッシュな雰囲気がいかにも良家の子息らしく、一転して義賊の首領となってからは組替え後に増した熱さとたくましさが、いかんなく発揮された。
ヒロインのアマーリア役には天彩峰里。健気さの中にも、何があってもカールを信じ待ち続ける気丈さをにじませる。義弟のフランツ(瑠風輝)は、兄への憧れと嫉妬から来る屈折した心の持ち主として描かれ、演じ甲斐のある役柄となっている。
脚本・演出の小柳奈穂子は原作の持ち味を生かしつつ、タカラヅカらしく物語を膨らませており、主要登場人物の周辺にもさまざまな役を配している。身分違いながらカールを愛し、愛し過ぎてしまったが故にカールの破滅に手を貸してしまうこととなる娘リーベ(華妃まいあ)、小役人ながらもどこかカールに理解を示し、ストーリーテラー的な役割も果たすヴァールハイト(鷹翔 千空)などが目を引いた。
名前は知りながらもなかなか手に取る機会がない「名作」の世界を気軽にのぞけるのもタカラヅカの魅力の1つ。芸術の秋、18世紀ドイツ文学の熱に触れてみてはいかがだろう。
文=中本千晶
放送情報
『群盗-Die Räuber-』-フリードリッヒ・フォン・シラー作「群盗」より-('19年宙組・シアター・ドラマシティ)
放送日時:2019年12月15日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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