宝塚月組・珠城りょう出演 『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』で味わう大人の苦み

『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』('19年月組・東京・千秋楽)より
『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』('19年月組・東京・千秋楽)より

10月にタカラヅカ・スカイ・ステージで放送される『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』は、『エリザベート』などを生み出したウィーン劇場協会が制作、ウィーンでロングランを記録したミュージカルだ。

ウィーンの老舗ホテルの2代目として経営改革に奮闘するジョージと、アメリカから久々に帰国した人気ハリウッド女優エマ。最初は反発し合いながらも互いに心惹かれていく2人の、それぞれの立場からの目線を通して「祖国」とは何かが描かれる。

誕生の経緯がとてもユニークな作品だ。最初にオーストリアの国民的シンガーソングライター、ラインハルト・フェンドリッヒのヒット曲ありきで、それらの歌詞からイメージを膨らませてストーリーが考えられたのである。

主人公ジョージを演じる月組トップスターの珠城りょうは、一見、宝塚王道の男らしい役どころが似合いそうなスターだが、意外にも個性的な役も人気が高い。たとえば、『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』の青柳誠二役では宝塚では珍しい、現代日本の普通の会社員を魅力的に演じてみせた。また、『B ADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』では月からやってきた大悪党を演じ、羽根を背負いつつサングラスをかけ、タバコを吸いながら大階段を降りてくる姿で衝撃を与えた。

そして今回の作品では、品が良くてどこか支えてあげたくなる「2代目若社長」という新たな一面をみせてくれる。

『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』に出演した美園さくら

エマを演じるトップ娘役の美園さくらは、ハリウッドの頂点に立った女優のプライドの影に、等身大な女性ならではの悩みをにじませる。持ち前の歌唱力も存分に発揮できる役だ。エマのマネージャー・リチャード(月城かなと)は、この作品の悪役パートをこだわりの芝居でちょっぴりコミカルに見せる。

マッチョでキュートなサッカー選手、パブロ(暁千星)。じつはパブロの恋の顛末が、ウィーン版と宝塚版の一番の違いだ。ウィーン版のパブロには祖国アルゼンチンに恋人(男性)がいる。だが、宝塚版のパブロは、ホテルのフロント係のフェリックス(風間柚乃)に一目惚れしてしまう。この「一目惚れ」の瞬間のパブロの表情に注目だ。

ジョージの両親、ヴォルフガング(鳳月杏)とロミー(海乃美月)はジョージとエマとはまた違う、熟年カップルの味わいを見せる。そして、このホテルだけでなく物語全体を回しているキーパーソンといってもいい存在がコンシェルジュのエルフィー(光月るう)だ。

まるで当て書きのように、どの役も演者の持ち味にぴったりはまっているが、基本ストーリーはウィーン版とほぼ変わっていない。これも『エリザベート』以来の信頼関係に基づいた、ウィーンと宝塚、両者の妥協なき歩み寄りがあってのことだろう。

ラインハルト・フェンドリッヒによる楽曲はどの曲も聴き心地が良いが、じつは風刺的なメッセージが込められている曲も多い。ジョージがエマとウィーンの街に出かけるときに歌われる「夜のウィーン」、リチャードの聴かせどころである「汚職のタンゴ」などはわかりやすい例だろう。

ジョージとエマのヘリコプターの場面はスペクタクルな見どころだが、音楽的な「聴きどころ」でもある。ここでは敢えて2人は歌わず、オーケストラの演奏だけを聴かせるという、珍しい趣向になっている。

『I AM FROM AUSTRIA』というタイトルだけ聞いたときは祖国礼賛ミュージカルのように思えるが、じつはそうではない。オーストリア人の「祖国」に対する一筋縄ではいかない思いが込められている作品だ。 

一見お気楽ミュージカルに見せかけつつ、そこに鋭いメッセージが控えめに盛り込んである。甘さ控えめなチョコレートトルテのような作品の「大人の苦味」の部分もじっくり味わってみたい。

文=中本千晶

写真クレジット:
I AM FROM AUSTRIA - The Musical with Songs by Rainhard Fendrich
Music and Lyrics: Rainhard Fendrich
Book: Titus Hoffmann & Christian Struppeck
Musical-Arrangements: Michael Reed
Orchestration: Roy Moore & Michael Reed
Original Production by Vereinigte Bühnen Wien
Worldwide Stage Rights: VBW International GmbH
Linke Wienzeile 6, 1060 Vienna, Austria
international@vbw.at   www.vbw-international.at

Published by GEDUR Musikverlag GmbH except BLOND by GEDUR Musikverlag GmbH / KILAUEA Musikverlag GmbH
©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

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放送情報

『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』('19年月組・東京・千秋楽)
放送日時:2020年10月4日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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