キャリアを振り返って思うこと...歌手であり女優、薬師丸ひろ子の軌跡

文:大前多恵 撮影:田中聖太郎

今年、歌手活動40周年を迎える薬師丸ひろ子。彼女が無観客で行なったオリジナルコンサートが、「薬師丸ひろ子 40th Anniversary Starting Special Concert presented by WOWOW」として、デビュー日の11月21日(日)にWOWOWライブで放送される。

コロナ禍の影響で約2年ぶりとなったコンサートは「歌を届けたい」という強い想いを起点に、WOWOWとの協議の末実現した。それに先駆け、11月15日(月)からは主演映画5作品を併せて特集。歌手と女優、2つの顔を持つ薬師丸ひろ子の魅力に浸ることのできる1週間となる。

撮影:田中聖太郎

コンサート会場に選んだのは、キリスト品川教会のグローリア・チャペル。曲の世界観に合わせ色とりどりに照らされる十字架の前に立ち、薬師丸は悲しみも痛みもすべてを温かく包み込むような微笑をたたえ、慈しみ深い歌声を響かせた。

撮影:田中聖太郎

撮影:田中聖太郎

「リハーサルが始まった時点から、『あぁ、こういうことがまたできるようになって、うれしいなぁ』と感じて、ミュージシャンの皆さんと音を出した時には感動がありました。教会で歌ってみたいと思ったのは、NHK朝の連続テレビ小説『エール』で、私が演じた光子が焼け野原で賛美歌を歌うシーンがあった事も影響していたのかな?と思います。それは今回のコンサートでも歌った『うるわしの白百合』、学生時代に礼拝の授業で歌った賛美歌の一つだったんです。とても好きな曲でしたし、今回は教会ということで、ぜひ歌ってみたいと選びました」

セットリストには「セーラー服と機関銃」「Woman "Wの悲劇"より」といった代表曲に加え、自身が作詞も手掛けた「アナタノコトバ」など、近年の想いを乗せた楽曲も盛り込んだ。

「歌ってきた曲たちは、自分の宝物であり、聴く方の想い出でもあって。その曲を聴いていた時に実はこんなことがあったとか、恋愛、失恋をしていたとか...何十年も前であっても、その思いは消えることがないと思うんですね。そういう意味では、私の場合は歴史が長いから(笑)、皆さんがふとご自分の青春時代に帰れる曲になっていればいいな、と思います。私が今感じている、思っている"言葉"を聴いてくださる皆さんに届けたい、そういう歌詞の曲を選んだつもりです」

撮影:田中聖太郎

歌手として40年、『野性の証明』での女優デビューからは43年を数える。このたび放送される主演映画5作を振り返ってのコメントも届いた。

『翔んだカップル オリジナル版』
「皆さんが相米慎二監督を語る上で、"しごかれる"とおっしゃるんですけれども、実際その通りの現場で(笑)。私にももちろん厳しくて、褒めてくださったのは運動神経のみでした。坂道を自転車で走ってきて壁にぶつかるシーンがあったんですけれども、本気でぶつかっていったのを監督がとても喜んでくれている様に感じて、それがうれしくて何度もぶつかっていきました。今考えるとかわいそうな子どもだったな、と思います(笑)。監督には、常に自分で考えるということと、とにかく集中するということを教わりました」

​『セーラー服と機関銃 完璧版』
「ラストの機関銃のシーンは一発本番だったので、私も役を演じていく中で興奮していく部分があったと思いますし、予定通りには行かなくて...飴ガラスですけれども、その破片が顔に当たる事故につながりました。切ったところが鼻に近かったので、血が流れて来たのを鼻水と勘違いして(笑)。でも、画的には血で良かったと思います(笑)。

あれから40年近く経つのに、地方ロケなどに行きますと、いまだに『ほらほら、あのセーラー服の』とご高齢の方に言っていただけるんですね。今になって、あの作品に出演したことは、自分の(人生の)中の1ページとして大きなことだったなと思います」

『探偵物語(1983)』
「松田優作さんはいつも真剣で、『適当』とか『こんなもんだろう』とかいうのを絶対に許さない方でした。監督と優作さんが毎朝されるミーティングに、私も混ぜてくださって。意見が分かれて『ひろ子はどう思う?』と聞かれた時に、私は『映画は監督のものだから』と言ったんですね。10代の女の子が優作さんを前にしてよくもそんなハッキリと...と思いますけれども(笑)、それを面白いと思ってくださったのか、とってもかわいがっていただいた記憶しかありません。

映画の主題歌にはものすごく大きな責任もありますけれども、非常にやりがいがあって。特に『探偵物語』では、大瀧詠一さんと松本隆さんという素晴らしいミュージシャンの方たちと出会えて、音楽、歌についての考え方もまた違うものになっていったと思います」

『Wの悲劇』
「ちょうど二十歳の頃の作品ですね。具体的に芝居を付けてもらって演技をする、という澤井信一郎監督との掛け合いに、"演じる楽しさ"を感じていました。いろいろと具体的に表現するよう、監督から指示を受けたんですが、それは自分の中にイメージとしてなかったこともあったので、とても高揚感がある作業だったんです。劇中劇では蜷川(幸雄)さんも演出してくださいましたから、『あぁ、芝居するってこういうことなんだな』と、毎日充実感を味わっていましたね。主題歌の『Woman "Wの悲劇"より』もとてもきれいな、私にとっても大切な歌です。最後の主題歌が流れるまで、皆さんにじっくり観ていただけたらうれしいです」

『ダウンタウンヒーローズ』
「山田洋次監督がまさにスターでいらっしゃるから、毎日監督を観ていました(笑)。20代の若い役者が集まって、皆で合宿のようにしてつくった作品です。今、共演したメンバーと会うと、必ずその時の話で盛り上がります。(実年齢は)20代を皆過ぎていますけれども、演じているのは旧制高校生の、一生に一度しかないキラキラ感。青い光が出ているのかな?という瞬間をいくつも見た気がします。

一番印象に残っているのは、渥美清さんと初めて共演させていただいたことですね。自分がこういう仕事を始める前から、渥美さんはスクリーンの中で観てきたスターで。いざ一緒の芝居場に立っても、渥美さんのところだけが作品として完成していて、例えばそれがリングだとしたら、自分は完全にロープに寄りかかって降参している、という感じでした。本当にただただ素晴らしかったとしか言いようがないです」

今では巨匠と呼ばれる監督たちがまだ若手で、切磋琢磨していた時代から、2021年の現在に至るまで、女優として様々な役を演じてきた薬師丸。ターニングポイントを尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「主演ではなくいわゆる脇に回ったのは、一つのターニングポイントでした。主役と違って脇であれば時間にも余裕があるし、演技のプランをじっくり考えたりも出来ます。逆にプランが薄いと成立しない事もある重要なポジションだと思います。いろいろ考えて監督に『こういうのどうですか?』と提示して、そのアイデアを喜んでくれたらなおうれしいですし。『木更津キャッツアイ』に出演したあたりからでしょうか、『演じるってこんなに楽しいことなんだな』と感じるようになりましたね」

年を経て、自らの表現によって"伝えたい"内容にも変化が起きている。

「『ひみつのアッコちゃん』だとか『魔法使いサリー』だとか、子どもの頃にアニメを観ながら『そんな魔法が使えたらいいよね』と思っていたような願いを、今私が俳優として実演しているんだな、という様に感じることが最近になってありました。特に好きなのは、映画『今度は愛妻家』だったり、朝ドラ『エール』の中で、亡くなった旦那さんが幽霊になって帰ってくる場面。その台本を読んだ時、私は涙が止まらなかったんですよ。『もう絶対に会えない』と思っていた旦那さんが、夢かもしれないけれど目の前に現れてくれて。また彼が去っていく時、寂しいけれど自分はその人生を受け入れているっていう。『これはすごい!』と思いました。そういうはかない想いに自分は惹かれるんだな、琴線が一番揺れるんだなと思いますし、そういう瞬間を絶対に見逃したくないですね」



デビュー日の11月21日(日)には、歌手活動40周年記念オールタイムベストアルバム『Indian Summer』をリリース。全シングル曲と近年の代表曲を網羅する2枚組に加え、薬師丸自身が監修したベストセレクションがDisc3として収められる。

「おこがましい言い方なんですけど、"日々成長していきたい"と言いますか。今の自分が昔よりも成長している、と自分に言い聞かせて生きてきたんですね。でも、デビューアルバムの『古今集』を今聴き返すと、本当に美しいメロディーで、歌い方もよい感じで力が抜けていて。以前は、そういう若い自分に向き合うのが恥ずかしかったので聴いてこなかったですし、映画にしても、正直あまり観てきていないんです。でも、最近昔のアルバムを聴き返してみると、やはり時代が生んだ歌というのでしょうか。『とってもいいかもしれない』と思ったところから、今の自分には出せないもの、その時だからこそできたものを集めてみようかな?と。今の新しい曲と、最古の曲が織り交ぜられたディスクになっています。『古今集』があって最新の『エトワール』があって、一人の人間が成長してきた段階がすごく分かりやすく表れているんじゃないかな?と思います」

撮影:田中聖太郎

最後に、「歌手活動40周年 コンサートと映画で楽しむ薬師丸ひろ子」の視聴者へ向けて。その言葉には、WOWOWオリジナルコンサートのラストナンバーの歌詞とも重なる、感謝の念が溢れていた。

「今の新しい歌は、"私からのメッセージ"と思っていただきたいな、と思います。やはりこの年齢になると、仕事をしてきた監督も亡くなっていて...だけど、やはり皆さんが与えてくれた厳しさは今の私にとって優しさだ、ということであるとか、自分の道は曲がりくねっているかもしれないけれども、『見守っていてください』ということであるとか。私自身も歌いながら、今の年齢だからこそグッと感じることがありましたし、皆さんにもそれが伝わればいいな、と思います。映画に関しては、その時々、若い監督もベテランの監督も、『いいものを撮ろう』と皆さん必死にもがかれた作品だと思います。ただ古い映画というのではなくて、『特撮がなくても、人力でここまでやるんだ?!』みたいな(笑)。バイクで新宿の街を駆け抜けるシーンも、あの時代だからこそ成立したことで、今なら無理ですよね(笑)。今の若い方が観ても、逆に"新しい"と感じるような場面も随所にありますので、楽しんでいただけたらと思います」

この記事の画像

放送情報

<歌手活動40周年 コンサートと映画で楽しむ薬師丸ひろ子>
薬師丸ひろ子 40th Anniversary Starting Special Concert presented by WOWOW
放送日時:2021年11月21日(日)19:30〜
チャンネル:WOWOWライブ

翔んだカップル オリジナル版
放送日時:2021年11月15日(月)18:45〜
セーラー服と機関銃 完璧版
放送日時:2021年11月16日(火)18:45〜
探偵物語(1983)
放送日時:2021年11月17日(水)19:00〜
Wの悲劇
放送日時:2021年11月18日(木)19:00〜
ダウンタウンヒーローズ
放送日時:2021年11月19日(金)18:45〜
チャンネル:WOWOWシネマ

※放送スケジュールは変更になる場合があります

最新の放送情報はスカパー!公式サイトへ

記事に関するワード

この記事をシェアする

関連人物

関連記事

関連記事

人気の記事ランキング

ランキングをもっとみる

スカパー!