ドラマシリーズに続いて映画化された『劇場版 ルパンの娘』(2021年)、『コンフィデンスマンJP 英雄編』(上映中)と、人気シリーズへの出演が続いている瀬戸康史。端正なビジュアルと品のある物腰で、映画やドラマ、CMと幅広い活躍ぶりは周知の通りだ。
理想の王子様キャラも、嫌味になりがちなエリート役も、リアルに演じ切る瀬戸だが、そんな彼が好感度の高いエリートとひねくれた毒舌キャラの二面性を持つ"イケメン御曹司"を演じた作品と言えば、今から約10年前――24歳の時に出演したNHKドラマ「眠れる森の熟女」(2012年)だ。
「眠れる森の熟女」は、主演の草刈民代扮する"どん底熟女"の挑戦を描くラブコメディ。突然夫から別の女性と再婚したいと打ち明けられ、人生が激変した46歳の主婦・千波(草刈)。だが、捨てる神あれば拾う神あり。離婚調停が平行線をたどる中、思い出のホテルで酔いつぶれた千波を介抱し、匿名で仕事も紹介すると申し出た人物がいた。その人物こそ、ホテルオーナーの御曹司である祐輔(瀬戸)。ホテルの若き総支配人を務める祐輔は、自分がその"恩人"だということを隠したまま、千波と手紙のやりとりをするようになる。
どん底の千波に、上司として「まずはゆっくり、最初の一歩を踏み出せばいい」と優しい言葉をかけた祐輔。20代ながら名言を駆使して部下を盛り立て、従業員の気持ちをひとつにまとめてきた彼は、抜群の経営手腕の持ち主でもある。序盤の祐輔は、そんな完璧な人物として描かれる。
だが、その本性は真逆。励ましの言葉が心からのものではなく単なる受け売りだったと知った千波に対して、「人の言葉や気持ちを簡単に信じる方がおかしい」と心ない言葉を投げかけるなど、ひねくれた裏の顔が徐々に見えてくる。
誰にでも好かれる"表の顔"と、辛辣な言葉を吐く最悪な"裏の顔"という、2つの顔を使い分けてきた祐輔。そして彼は、純粋で率直な千波の人柄に触れるうち、これまで誰にも見せてこなかった顔――孤独を抱えて小さな子供のように震える"3つめの顔"をさらけ出していく。
精悍な顔立ちと爽やかな笑顔が印象的な瀬戸が、祐輔の中にひそむ3つの顔を多面的に表現。祐輔が実はひねくれた性格の持ち主だとわかる場面、さらにその奥には孤独な本音を抱えているとわかる場面のギャップは実に魅力的で、祐輔というキャラクターに奥行きが加わり視聴者をぐいぐい引き込んでいく。
ストーリー自体は、ヒロインの千波をはじめ、タイトルが指し示す"熟女"たちの成長物語が軸になっているが、その成長の起爆剤が、手紙とリアルそれぞれで展開される「千波と祐輔の関係性」である点も面白い。手紙では祐輔が千波を導き、励まし、支える一方で、リアルな人間関係の中では、時に年上の千波に対して弱みを見せることも。祐輔が"エリート"という殻を破り、等身大の姿をさらす姿は、確かに女性の"守ってあげたい"という想いを刺激する。
30代になり、近年では主人公夫婦を生涯支える義弟を演じたNHK連続テレビ小説「まんぷく」(2018年)や、すべてを包み込む優しさを持った産婦人科医を演じた「透明なゆりかご」(2018年)、相手の恋を見守る"切ないまでにいい人"を演じた「パーフェクト・ワールド」(2019年)など、人間的にもより大きなキャラクターを自然体に演じている瀬戸。
そこには、「眠れる森の熟女」の延長線上にある、揺れ動く心情に寄り添った繊細な役づくりが存分に活かされているように思う。青年から大人の男性へと移り変わる"過渡期"を体現した祐輔役を、この機会にもう一度味わってみてはいかがだろうか。
文=酒寄美智子
放送情報
眠れる森の熟女
放送日時:2022年2月17日(木)0:30~
※毎週(火)~(土)0:30~
チャンネル:女性チャンネル♪LaLa TV
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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