吉高由里子、19歳。当時、ARATAと名乗っていた井浦新、33歳。2008年に公開された映画『蛇にピアス』は、2人が初めて共演した美しくセクシーで、かつ痛覚を刺激するスキャンダラスな映画だ。4月にWOWOWプラスで放送される。原作は作家・金原ひとみのデビュー作であり第130回芥川賞を受賞した同名小説。当時20歳だった金原が舌ピアスや入れ墨などの肉体改造をモチーフに書いた小説ということで注目を浴びた。映画は故・蜷川幸雄監督がそんな原作に忠実に撮った芸術的な作品だ。
主人公のルイ(吉高由里子)は19歳。家庭との縁は薄く、家出同然の状態でギャルっぽい格好をして渋谷などで遊んでいる。ある日、蛇のように舌の先が2つに分かれた"スプリット・タン"の男アマ(高良健吾)に出会い、彼のアパートで同棲を始める。アマは体に龍の入れ墨を入れており、それを彫ったシバ(井浦新)にルイを紹介。ルイはスプリット・タンを段階的に作っていくための舌ピアスを入れ、さらに入れ墨を彫ってもらう代金としてシバに体を差し出す。
そんな性と暴力をめぐる物語ゆえに、吉高はヌードも厭わず、美しい全身を見せている。その脱ぎっぷりは、見る側が恥ずかしがっていられないほど潔い。ルイは一見、性愛におぼれているように見えて、クールに現実を見つめており、そんな冷めた面も吉高がよく表現している。吉高のファム・ファタール(運命の女)的な小悪魔的魅力も発揮され、シバやアマがルイに執着していく展開にも説得力がある。まさに体当たりの演技で、初主演映画にして第32回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。
この後、吉高はドラマ「最愛」(2021年TBS系)で井浦と再共演し、熱演が評判となった。第110回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞を受賞した際にはこう語っている。
「『蛇にピアス』は私がデビューして2年後の作品で、お互いにまだ場慣れもしていないし、場数も踏んでいない状態でした。不器用で尖っていた時期で、今だったら恥ずかしくて話せないことをむきだしで話していた相手で、井浦さんは恥ずかしい行動や思想をしていた私を知っている」(第110回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞 受賞インタビュー、webザテレビジョン2022年掲載記事)
「最愛」では、吉高演じる大企業の社長の娘・梨央が15年間、井浦演じる加瀬弁護士に支えられてきたという設定。長年の信頼関係で結ばれた関係性は、13年前に共演した2人だからこそ出せたものかもしれない。
「蛇にピアス」は吉高という現在、第一線で活躍する女優が「不器用で尖っていた」時期をそのままフィルムで写し取った貴重な記録だと言えるだろう。ルイは刹那的で破滅的に生きているようにも見えるが、アマが警察に追われる立場になると、必死に彼を庇おうとする情の厚さもある。そして、大切な人を失い泣き叫ぶ様は、過酷な運命に翻弄される女性を演じた「最愛」でも見せた表情で、13年前と今が確かにつながっていることを感じさせる。
©2008「蛇にピアス」フィルムパートナーズ
R-15指定で性描写が多く、目を背けたくなるようなシーンもあり、誰にでもおすすめできる映画ではない。それでも、前向きで明るい生き方ばかりを描く作品に飽き足りなさを感じたときに見ると、価値観を揺さぶられるような衝撃を受けるはずだ。
文=小田慶子
放送情報
蛇にピアス
放送日時:2022年4月9日(土)23:15~、4月18日(月)23:15〜、4月29日(金)1:15〜
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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