三浦春馬がカメラマンを目指す大学生を初々しく演じた映画『東京公園』

今年3月、青山真治監督が惜しまれながら逝去した。2001年の映画『EUREKA ユリイカ』は第53回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞とエキュメニック賞をW受賞するなど、世界的にも高く評価され、作家や舞台の演出家としても広く活躍してきた。『サッド ヴァケイション』(2007年)以来の4年ぶりとなる長編映画が、『東京公園』(2011年)だ。人気作家・小路幸也の同名小説をもとに豪華俳優陣を得て映画化した本作は、第64回ロカルノ国際映画祭コンペテション部門で金豹賞審査員特別賞を受賞。世界にその才能を認められた青山監督の名作がWOWOWシネマで放送する。

『東京公園』で主演を務めた三浦春馬
『東京公園』で主演を務めた三浦春馬

(C)2011「東京公園」製作委員会  (C)2006 小路幸也 / 新潮社

公園を訪れては家族写真を撮っていたカメラマン志望の大学生・光司は、初島という歯科医から思いがけない話を持ちかけられる。幼い娘を連れて東京のあちこちの公園を散歩する女性・百合香の後をつけて、彼女の写真を撮るという奇妙な依頼だった。その母娘と一緒に東京の公園巡りをするうちに、彼は次第に亡き母親の面影を重ね合わせるようになる。周囲の人々とさまざまな人間模様を紡ぎ出していく様子を優しく見守るように映し出す、切なくも爽やかな青春ラブストーリーだ。

(C)2011「東京公園」製作委員会  (C)2006 小路幸也 / 新潮社

幼い頃に亡くした母親の影響でカメラマンを志す光司は、三浦春馬が演じた。幽霊となった親友役の染谷将太や、その元カノで幼馴染み役の榮倉奈々との掛け合いも自然で、まだあどけなさの残る笑顔が眩しい。小西真奈美演じる義理の姉や井川遥演じる被写体となる女性への、憧れと恋の狭間のような複雑な感情も細やかに表現した。自信が持てず荒れる初島と公園の大木の下で言葉を交わすシーンで見せた、自分に語り掛けているような表情も印象に残る。20歳前後の初々しさもありながら、三浦が丁寧な演技で物語を紡いでいく。

ある時は憩いの場であり、ある時は他者や自分と向き合う場でもある公園は、大都会・東京にも数多く存在する。ふっと肩の力を抜ける空間が普段の暮らしの一部に組み込まれている。穏やかに緩やかに展開する中で描かれているのは、時に難しく思い通りにならない人生の素晴らしさだ。そこにある幸せの匂いに気付く本能が、人間には備わっているのだろうか。三浦をはじめとする実力派俳優たちの自然体の演技から、その本質を読み解く深みのある作品となった。

若かりし頃の浅野忠信や宮﨑あおいを起用し、稀有な才能を見出してきた青山監督。三浦を本作の主人公に抜擢したのも必然であったかもしれない。繊細で優しい心に大きな可能性と不安を秘めた青年は、三浦そのもののようだ。真っ直ぐに相手を見つめる瞳の純粋さが胸に響いた。

文=中川菜都美

この記事の全ての画像を見る

放送情報

東京公園
放送日時:2022年6月4日(土)1:15~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

記事の画像

記事に関するワード

関連人物