高畑充希が閉館寸前の映画館を立て直す!映画館の意義を考えさせてくる映画『浜の朝日の嘘つきどもと』

福島県南相馬市に実在する映画館「朝日座」を舞台に、経営難の「朝日座」を立て直すべく、東京からきた若い女性が、地元住民と共に奮闘するという映画が「浜の朝日の嘘つきどもと」(2021年公開)だ。もともと、2020年に福島中央テレビ開局50周年記念作品として放送された同タイトルのテレビドラマ版の前日譚にあたる作品。

まずはストーリーを紹介しよう。南相馬の「朝日座」は、100年近い歴史を持ち、名画座として地元の人に深く愛されていたが、近年は時代に波に押されて経営は苦しい。閉館を決めた支配人の森田保造(柳家喬太郎)がフィルムを燃やそうとすると、朝日座を立て直すために東京から来たという女性・茂木莉子(高畑充希)が現れた。彼女は自身の恩師である教師の田中茉莉子(大久保佳代子)に、「南相馬の朝日座という映画館を立て直してほしい」と依頼されてやってきたのだった。

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』

(C)2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

東日本大震災を機に、あらぬ誤解から故郷の福島を追われて上京した莉子は、東京での生活もうまくいかず、郡山にある茉莉子先生の家に身を寄せていたことがあった。映画の魅力を教えてくれた茉莉子先生のおかげで立ち直った彼女は、やがて映画の道に進んで映画の配給会社で活躍するようになる。そんな折、病に倒れた茉莉子先生に再会し、朝日座の救済を頼まれたのだ。約束を果たすために映画館を守ろうと奔走する莉子と、積年の思いを断ち切り閉館を決めた支配人・森田。果たして「朝日座」の運命は...。という物語である。

本作の主演を務める高畑は、中学生だった2005年にホリプロのオーディションに合格してデビューを果たすと、2007年から2012年まで6年間にわたってミュージカル『ピーターパン』で8代目ピーターパン役を務めた。当時演出を担当した松本祐子(文学座)は、「今時珍しい根性のある子」だと高畑を評している。その後も舞台『奇跡の人』『美男ですね』『コーヒープリンス1号店』で次々に主演を務め、2018年の映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』において、日本アカデミー賞・優秀助演女優賞を受賞するなど、評価を高めている。

本作のヒロイン・莉子は溌溂とした性格ながらも、大胆な行動の裏に繊細な心情をあわせもつ複雑な人物像。震災後に父の仕事への誤解から孤立してしまった悲しい過去を持つが、苦しい時に自分を助けてくれた茉莉子先生と映画に対して深い愛情を抱いている。そんな彼女の心情を丁寧な芝居で魅力的に演じている高畑の演技が心にしみる作品だ。

朝日座の支配人・森田保造を演じる柳家喬太郎も高座で見せる姿とは、一味違った魅力を見せてくれる。今、最もチケットが取れない落語家のひとりとも言われる喬太郎の演技を映画で堪能できる貴重な機会だ。さらに、近年のバラエティ番組には欠かせぬ芸人のひとりとなった大久保佳代子の演技も出色だ。過去にも刑事ドラマなどでの演技が評判ではあったが、本作における活き活きとした演技は女優としての大久保の実力をあらためて知らしめるものだった。さらに共演陣には、甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑、竹原ピストル、光石研、吉行和子という実力派俳優が集結。演技合戦としての見ごたえも抜群となっている。

脚本・監督のタナダユキは、2004年にフォークシンガーの高田渡を追ったドキュメンタリー映画『タカダワタル的』が東京国際映画祭に特別招待作品として上映され、さらに同年の映画『月とチェリー』が海外で高く評価されて名を馳せた。2008年に脚本・監督を務めた『百万円と苦虫女』では日本映画監督協会新人賞も受賞している。人間の機微を感じさせる独自な作風は本作においても健在。東日本大震災と原発事故で大きな傷を負った福島県の人々にも勇気と希望を与えてくれる映画に仕上がったといえるだろう。

さらにコロナ禍を経た今だからこそ、映画愛と人間愛に溢れた本作の価値はより大きい。『浜の朝日の嘘つきどもと』

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放送情報

浜の朝日の嘘つきどもと 
放送日時:2022年6月24日(金)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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