昭和を代表するミステリー小説の大家・松本清張の代表作の1つである社会派サスペンス「砂の器」は、これまでテレビ、映画など幾度となく映像化されてきた不朽の名作。これまでの映像化作品では今西刑事の視点や、犯人側からの視点など、作品ごとにさまざまなアレンジが加えられて物語が紡がれてきたが、2011年9月に2夜連続で放送された「松本清張ドラマスペシャル 砂の器」は、玉木宏演じる若手刑事・吉村弘の目線で描き出すところが特徴。そんな同ドラマが8月6日(土)、8月13日(土)の2週にわたってCSテレ朝チャンネルで放送予定となっている。
本作の舞台は昭和35年。東京・蒲田駅で、顔をつぶされた身元不明の男性の他殺体が発見されるところから物語は始まる。捜査本部による聞き込みにより、事件前日の夜に蒲田駅付近のバーで、被害者らしき男が、もう1人の若い男と一緒にいた、という目撃情報が寄せられる。さらにその若い男が東北弁らしき言葉で「カメダは相変わらずですか?」と言っていたらしい、ということを手がかりに大規模な捜査が始まり、そこで作曲家の和賀英良(佐々木蔵之介)という人物にたどり着く。今西(小林薫)と吉村はなんとかして和賀の犯罪への関与を暴こうとするが、和賀にはどうしても隠し通さなければならない、宿命ともいうべき過去があった――。
玉木にとっては30代初の単独主演作、かつ初の清張作品ということで、「やはりプレッシャーはありましたが、やりがいもあります」とコメント。しかも、玉木は上京した際に本作の映画版を観て感銘を受けたとのことで、「こういう重厚なドラマができるように成長したい」という思いで挑んだという。舞台は明日への希望に満ちあふれていた高度成長期の日本だが、戦後まもなくということもあり、戦争の影も色濃かった時代。和賀の音楽を聴いた吉村は、そこに戦争の匂いを感じ取る。玉木自身、戦争の幻影に苦悩する吉村を力強く演じている。
一方で、玉木が演じる吉村刑事の恋人で、新聞記者・洋子(中谷美紀)というオリジナルキャラクターとの軽妙なやりとりも見どころのひとつだ。当時では珍しい自立したキャリアガールともいうべき洋子は、特ダネを掴むために事件の真相を追い、時には吉村たちに事件のヒントを与えることになるキーパーソン。地道な捜査と鋭い観察眼で事件の真相に迫っていくベテランの今西刑事に心酔し、事あるごとに「今西さんは勉強になるなぁ」としみじみしている吉村に向かって、「あなたはもっと女を勉強しないとね」と茶化すなど、玉木演じる吉村とのつかず離れずな軽妙なやりとりは、重厚な作品世界の中で、心を軽くしてくれるようなひとときだ。
また、清張作品といえば、ロケーションの妙も見どころの1つとなるが、本ドラマでも昭和の映像を再現すべく、東京、大阪、京都、三重、滋賀、兵庫、岡山など各地で大規模なロケーションを敢行。特に撮影が冬の時期だったということもあり、ところどころで雪景色がチラホラ。人間の宿命、運命、絆などを描きだした本作に相応しい、重厚な映像美を堪能することができる。
文=壬生智裕
放送情報
没後30年 松本清張名作ドラマスペシャル 「砂の器」(2011年)
放送日時:2022年8月6日(土)19:00~、2022年8月13日(土)19:00~
チャンネル:テレ朝チャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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