今年11月で40歳を迎える女優・深田恭子。年齢を重ねるたびにその美しさに磨きがかかっている印象だが、約10年前、女優として大きな挑戦となった意欲作が、2011年に公開された映画『夜明けの街で』(WOWOWシネマにて8月6日放送)だ。
「白夜行」や「探偵ガリレオ」シリーズなど多くのベストセラーで知られるミステリー作家・東野圭吾が初めて手がけた恋愛小説を、『沈まぬ太陽』の若松節朗監督が映画化。当時30歳目前だった深田が大人の魅力をまとい、体当たりで披露した艶やかな演技も大きな話題を呼んだ。
■既婚男性を誘惑する「大人の色香」も!深田恭子が挑んだ新境地
大手建設会社に勤める男性と派遣社員の女性との不倫関係を主軸にしながら、時効寸前の殺人事件が大きく絡んでくる展開など、ミステリーとしても楽しめる作品に仕上がっている同作。主人公の渡部和也を演じるのは岸谷五朗。そして、彼を誘惑するヒロイン・仲西秋葉を深田恭子が情感たっぷりに演じている。
そんなアウトラインからもわかるように、この作品で深田が演じている秋葉は、妻子のある和也をズルズルと不倫の深みに引きずり込んでいく"魔性の女"というべきキャラクター。深田のそれまでのキャリアの中でも新境地ともいえる役柄で、和也と秋葉が親密になっていく過程を表現するため、大胆なラブシーンにも挑んでいる。
ほぼ時を同じくして公開された『セカンドバージン』(2011年)では、不倫"される"側の妻を演じたことも手伝って、公開当時は「今までになく大人の色気が溢れた作品」といった深田の演技を称える声も多く、そのチャレンジに注目が集まった。
■強さと弱さ...深田恭子が『夜明けの街で』で見せたミステリアスな魅力
気が強く負けず嫌いな秋葉は、職場の顔見知り程度だった和也にある夜、街で偶然出会い、酔っぱらった挙句に迷惑をかけてしまう。だが「ごめんなさい」の一言が言えず、回りくどい方法で謝罪の気持ちを表そうとして、かえって和也を怒らせる。
人は、出会いが最悪であるほど、些細な変化を好ましく感じてしまうもの。秋葉の気の強さや負けず嫌いな性格を知った和也は、秋葉がその後少しずつ心を開き、素直な一面を見せ始めるにつれ、次第に彼女に惹かれていく。
オフィスではメガネをかけ、清楚で知的な印象を見せたかと思えば、和也に「人に迷惑をかけたら謝る。簡単なことだろ」と叱られ、「簡単にそう言えれば...私こんなに苦しくない」と急に弱みを見せる。その緩急が秋葉の魅力となって、見る者を強烈に惹きつける。
和也に対して言い募る「どうします?逃げたい?」や、本心を見透かした「それ、嘘ですよね?」といった相手を試すようなセリフが何度か登場するのも、"強さ"と"弱さ"を併せ持つ秋葉の二面性を際立たせるのに一役買っている。さんざん強がりを言った後に、表情を緩めて口にする「ごめんなさい」が絶妙にしおらしく、幸せな家庭で満ち足りた生活を送っていたはずの和也がその深みにはまっていくのにも説得力がある。
和也が不倫の深みにはまっていく一方で、15年前に起きた時効間近の殺人事件に秋葉が関わっていることが明らかに。彼女の謎めいたバックボーンがクローズアップされ、隠れていた秋葉の新たな顔が一つまた一つと剝がれていく。何かまだ秘密がありそう...と思わせるミステリアスなヒロイン像が秀逸で、物語の沼に引き込まれていくこと必至だ。
『夜明けの街で』の公開後、NHK大河ドラマ第51作「平清盛」では妻・時子役を演じるなど、30代へ向けて女優としてさらなるステップアップを遂げた深田恭子。様々なチャレンジとなった秋葉役を通して、彼女の魅力に改めて触れてみてはいかがだろうか。
文=酒寄美智子
放送情報
夜明けの街で
放送日時:2022年8月6日(土)12:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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