深田恭子の奔放さに松本幸四郎が生きる価値を見出す!映画史に残る名作をリメイクした黒澤明ドラマスペシャル「生きる」

巨匠・黒澤明監督の代表作を語る上で、『七人の侍』と並んで絶対に外せない一作とも言われるのが、1952年に公開された『生きる』である。同作は、志村喬演じる市役所の課長が、ガンで余命幾ばくもないことを知り、己の「生きる」意味を見つめ直すという物語だ。数ある黒澤作品の中でも、平凡な市井の人物に焦点を当て、ヒューマニズムを強烈に描き出した点が国内外で高く評価されている。ちなみに同年のキネマ旬報ベストテンで1位に選定され、ベルリン国際映画祭でもベルリン市政府特別賞を受賞している。

病に侵され、憔悴した様子の松本幸四郎
病に侵され、憔悴した様子の松本幸四郎

⒞テレビ朝日

そんな映画史に残る名作をドラマ化してリメイクしたのが、2007年にテレビ朝日系で放送された、黒澤明ドラマスペシャル・第二夜「生きる」だ。主人公の渡辺勘治を演じたのは松本幸四郎(現・松本白鸚)。映画版のストーリーにほぼ忠実だが、時代設定を現代にしているため、少しアレンジがされている。

市役所に勤務する渡辺勘治(松本幸四郎)は、自宅では息子夫婦に疎まれ、市役所では市民課で黙々とハンコを押すだけの無為な日々を送っていた。彼は酒も煙草もやらず、無遅刻無欠勤で与えられた仕事をひたすら30年間続けてきた男である。部下である木村(ユースケ・サンタマリア)やサチ(深田恭子)たちは、そんな勘治とつかず離れず付き合ってきた。

しかしある日、勘治はすい臓がんで自らの余命が長くないことを知らされる。ショックを受けた勘治は、偶然出会ったサチと話すうち、彼女の奔放な性格に自分にないものを感じる。人生が残り少ないことを知った彼は、自分もサチのように生きられたら...と思ううちに、「生きる」術を見出していくのだった...という物語だ。

本作における幸四郎の演技は、さすがの一言であり、映画版の志村に劣らず強く惹きつけられる。派手な設定は何もなく、勘治は現実にどこにでもいそうな人物であるだけに感情移入されてしまうのだ。いじめ問題を盛り込むなど、映画版の時代とは異なる社会背景を盛り込んでいるあたりも独自性が感じられる。また、斉藤由貴が歌った井上陽水の名曲「夢の中へ」が挿入歌として使われていることも印象的だった。しかし、本作のひとつの特徴としては、小田切サチの存在感がより高まっている点ではないだろうか。

サチの奔放な性格と生きざまを眩しく感じる勘治の心情が、深田恭子の好演で非常にストレートに伝わってくるのである。このサチ役に深田をキャスティングしたことこそが、本ドラマ版の大きな価値にもなっている。映画版には登場しないはずの重要な場面にもサチが出てくるので、それも楽しみに見てほしい。

黒澤映画の「生きる」といえば、志村喬がブランコに乗って歌う「ゴンドラの唄」の場面があまりにも有名であり、象徴的だ。日本映画史に残るほどの名場面で、もはやレジェンドともいえるのだが、本作にももちろん登場する。こちらも映画とは趣が異なる工夫がされているので必見だ。

共演者は、他に北村一輝、渡辺いっけい、西村雅彦、佐藤二郎、小野武彦、沢村一樹といった面々。出演した俳優たちのほとんどは、オリジナルを見ているはずだ。レジェンドの作品のリメイクに出演できる喜びが伝わってくるようで、俳優たちが皆生き生きと演じている感じがした。

様々な意味で見どころが多いドラマ版の「生きる」。映画版を見たことがある人にはもちろん、未見の人にも深い感動を与えてくれることは疑いない。

文=渡辺敏樹

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放送情報

黒澤明ドラマスペシャル「生きる」
放送日時:2022年11月19日(土)19:00~
チャンネル:テレ朝チャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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