――監督が考える物語のターニングポイントは?
「エピソード5のエンディング。なぜかやたらと親しげに近づいてくるセレブのカン・ミンハクをずっと避けてきたチュ・ヨンサンが、逆に自分からミンハクに『一緒にグループワークをしよう』と声をかける場面が5話(副題『新学期総会』)に出てきます。この瞬間からヨンサンは気づくんです。『あ、私、ミンハクに惹かれてるんだな』と。これがチュ・ヨンサンにとってのターニングポイントです。
そしてエピソード8のエンディング。今、自分の価値は人気があること以外、何なのかと悩んでいたカン・ミンハクが、チュ・ヨンサンに段々と惹かれていた中で......チュ・ヨンサンに良くしてあげようとした結果、ヨンサンが偶然持っていたある物(大人のおもちゃ(汗))を講義室にいた人たち全員に見られてしまうという大失態を犯します。この出来事をきっかけに、ミンハクはヨンサンに対して漠然とした憧れ以上の申し訳なさと責任感を抱くようになるんです。これがカン・ミンハクにとってのターニングポイントです」
――撮影中、忘れられない出来事や思い入れのあるシーンは?
「2月中旬、最初の屋外撮影の日に、なんと大雪が降ったんです。キャンパスの新学期初日の風景を撮る予定の日だったのに......普通なら撮影を中止して別日に延期するのが一般的ですよね。でも1時間ほどすごく悩んだ末、『これは気候変動が進むこの時代に、とてもリアルな風景ではないか』と思い至りました。どうせこれから3月、4月の撮影中も、こんなことが数え切れないほど起こるような気がしました。なので、もう雪があちこちに積もってて、溶けてもいたりする状況をドラマに収めました。
そして、本格的に撮影を行う3月、4月......例年なら暖かいはずの季節なのに、1日の中で雨が降ったり雪が降ったり再び快晴になったりと、天気がめまぐるしく変わっていきました。もしかしたら、初めての屋外撮影の日の選択がこのドラマの基調となり、その後もそんな天気の変化に落ち込んだり、後ろめたさを感じたりすることなく、むしろドラマに取り入れました。演出者が脚本を兼ねていたからこそ、そうした柔軟な判断ができたのかもしれません。
また、これまで私の作品に出演してくださった俳優たちが友情出演して、現場を盛り上げてくれたりもしました。キム・ソンリョンさん、アン・ジェホンさんなどが一話ずつ素敵にカメオ出演してくれたんです。その中に、特別出演ですが、複数エピソードに登場し、物語上重要な役割を果たすパン・ミナさんがいらっしゃいます。Girl's Dayというガールズグループのメインボーカルで、有名なアーティストでもあります。彼女がカン・ミンハクの元恋人という、単なる機能的にもなり得るキャラクターを担うことで、ディテールを吹き込んでくれたような気がします。台本を送ると、自らセリフや状況に対するアイデアを考えて提案してくれるほどでした」
――本作品には、多様な恋愛模様や今の若者のカルチャーについてが描かれています。演出される中で最も気にしたポイントがありましたらご紹介いただきたいです
「韓国の青春ドラマは、多くがソウルの名門大学を舞台に、健全な異性愛者の明るい恋愛ばかりを描きがちです。気候危機の時代なのに、いつも天気は快晴。経済的に厳しいはずなのに、デートはいつも華やか。でも、実際の韓国にはソウル以外の所に住む若者も多く、名門大学ではなく、来月の家賃を心配する人たちの方がずっと多いんです。LGBTQ+人口も多く、留学生、障がいをもつ方もいます。一方で、日本でもそうだと思いますが、多くの若者にとって、今は現実よりもSNS上の世界の方が大事で、そこでの評価を気にし、オンラインで出会うことも多いのに、そうした姿はあまりドラマに描かれません。だからこそ、このドラマでは、実際に存在するのに従来のドラマでは描写が限られていた多様な背景を持つ若者たちが愉快に動き、喧嘩し、仲直りし、恋をする姿を描きたかったんです。なので、舞台はソウルではなく京畿道、3月の春なのに雪や雨が頻繁に降る不安定な天気の中、彼らが忙しく動き回る姿を映しました。アプリで出会った男に失望するシーンも、異性愛に限らない若者たちの恋愛も込めました」